総合力の高さに定評のあるコンパクトカー、フィット。2020年デビューの現行型は上級ハイブリッドシステムを搭載するなどますます完成度を高めている。1.5ℓクラスのライバルたちとともに、その魅力をあらためて振り返ってみた。

●文:渡辺陽一郎

コンパクトの王道! HONDA HONDA vs ライバル

コスパが良好で
買い得なモデルが揃う

 最近はSUVの人気が高いが、コンパクトカーの売れ行きも好調だ。コンパクトカーとは、小型/普通車で最小サイズのカテゴリーになる。全長を4m前後に設定した5ナンバーサイズのハッチバックボディに、排気量が1ℓから1.5ℓのエンジンを搭載した車種が多い。ハイブリッドも増えた。また3ナンバー車のミドルサイズハッチバックをコンパクトカーに含める場合もある。
 人気の理由は、優れた実用性と求めやすい価格だ。コンパクトなボディは混雑した街中でも運転しやすく、空間効率の優れた車種が多いため、後席に余裕のあるファミリーカーも選べる。売れ筋の価格帯は、ノーマルエンジン車であれば背の高い軽自動車と同程度の180万〜200万円だ。ハイブリッドでも220万〜240万円に収まる。長距離を移動する機会が多いなど、軽自動車を避けたいユーザーにとって、コンパクトカーは出費を抑える上でも魅力的なカテゴリーだ。
 フィットはコンパクトカーの中でも、以前から高い人気を得ている。初代モデルは'01年に発売されて注目を集め、'02年には国内の最多販売車種になった。燃料タンクを前席の下に搭載する独自のプラットフォームによって後席も広い。後席をコンパクトに格納すると、大容量の荷室に変更できる。全長が4m前後で、全高を立体駐車場が使いやすい1550㎜以下に抑えたコンパクトカーでは、最大級の室内空間を備える。パワーユニットは1・5ℓのノーマルエンジンとハイブリッドで、グレードもSUV風のクロスターやスポーティなRSなどを多彩にそろえている。
 フィットのライバル車は、全長が4m前後で、全高を立体駐車場が使いやすい1550㎜以下に抑えた車種だ。ヤリスは全長が3950㎜と短く、ボディは比較的軽い。後席は狭めだが小回りの利きは良好だ。エンジンは直列3気筒で、1ℓのノーマルタイプも用意した。最廉価の1.0Xの価格は150万1000円に収まり、1.5ℓのガソリンエンジンとハイブリッドも選べる。ノートは全長が4045㎜と少し長く、後席の足元空間にも余裕がある。ハイブリッドのe-POWERのみを搭載し、低燃費と併せて上質な運転感覚も特徴だ。個性的なコンパクトカーでは、マツダ2もフィットのライバル車に入る。後席の広さはヤリスと同程度で4名乗車には適さないが、外観はスポーティで内装は上質だ。コンパクトカーでは唯一、直列4気筒1.5ℓのディーゼルターボも選べる。

HONDA フィット

《1.5ℓ直4》165万5500〜239万2500円
《1.5ℓ直4 e:HEV》206万9100〜274万8900円

クラスNo.1の『室内空間』

室内の広さはクラス標準を
大きくしのぎ、積載の工夫も◎

 フィットに身長170㎝の大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半だ。ヤリスとマツダ2は握りコブシ1つ少々、ノートは2つ弱だから、フィットは圧倒的に広い。しかも燃料タンクを前席の下に搭載するため、後席の座面を持ち上げると、車内の中央に背の高い荷物を積める。後席の背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がり、簡単な操作で広い荷室に変更できる。このほかフィットは、フロントピラーの形状を工夫してサイドウインドウの下端も低く抑えたから、前後左右ともに視界も優れている。売れ筋グレードのホームは最小回転半径も4.9mに収まり、運転しやすいことも特徴だ。

燃料タンクを前席下に置くセンタータンクレイアウトを採用。ダイブダウンや座面チップアップが可能な後席と相まって、低くフラットな荷室床面や多彩な積載アレンジをもたらす。
元々は上位クラス向けだった2モーター式ハイブリッドをコンパクト化することで搭載可能とした。安全&運転支援のホンダセンシングが全車に標準搭載されるのも魅力だ。

TOYOTA ヤリス

《1ℓ直3》150万1000〜179万9000円
《1.5ℓ直3》157万9000〜235万2000円
《1.5ℓ直3ハイブリッド》204万4000〜269万4000円
※GRヤリスを除く

クラスNo.1の『燃費性能』

搭載するパワートレーンは
いずれも出力と燃費を高次元で両立

 ヤリスの特徴は優れた燃費性能だ。特にハイブリッドは効率が優れ、ハイブリッドXのWLTCモード燃費は36㎞/ℓに達する。軽自動車も含めて、国内で購入可能な4輪車では最良の燃費数値となった。上級のハイブリッドZでも35.4㎞/ℓだから、ヤリスは全般的に燃費が良い。車両重量も軽く、ノーマルエンジンのXやGは、2WDなら1トン以下に収まる。ハイブリッドZでも1090㎏だ。ボディの軽さは低燃費だけでなく、動力性能にも優れた効果をもたらして、登り坂も活発に走る。ステアリング操作に対する車両の反応も適度に機敏だ。1.5ℓノーマルエンジン車には6速MTも用意され、低価格でスポーティな走りを楽しめる。

NISSAN ノート

《1.2ℓ直3 e-POWER》229万9000〜269万600円

クラスNo.1の『上質感』

e-POWERの電動フィールも
あいまって上質な乗り心地だ
 ノートの内装は、5ナンバーサイズのコンパクトカーとしては、最高水準の上質感を備える。インパネは立体的で、メーターには各種の情報を表示できる7インチのカラーディスプレイを採用した。シート生地には合成皮革が使われ、座り心地を含めて上質だ。内装色も注目される。シート生地には定番のブラックに加えて明るいグレーも用意され、上品な雰囲気に仕上げた。車内も広く、後席はここで取り上げた4車の中ではフィットの次に広くて快適だ。e-POWERは、エンジンは発電を行って駆動はモーターが担当するため、加速が滑らかでノイズも小さい。e-POWERの走りもノートの上質感を際立たせている。

MAZDA マツダ2

《1.5ℓ直4》154万8800〜230万3400円
《1.5ℓ直4ディーゼルターボ》195万5800〜262万2400円

クラスNo.1の『走行性能』

ディーゼルの図太いトルクが
クラスを超えた走りをもたらす
 マツダ2の一番の特徴は、直列4気筒1.5ℓのガソリンエンジンと併せて、クリーンディーゼルターボも選べることだ。ディーゼルの動力性能は、6速MT仕様の場合、最高出力が105PS(4000rpm)で最大トルクは25.5㎏・m(1500〜2500rpm)になる。最大トルクの数値は、ガソリンエンジンに当てはめると2.5ℓに相当する。しかも実用域の2000回転前後で発揮されるため、アクセルペダルを軽く踏むだけで十分な加速力が得られる。さらにWLTCモード燃費は、2WDの6速MTが21.6㎞/ℓだ。軽油価格の安さも考慮すると、燃料代はハイブリッド並みに安い。マツダ2では、ディーゼルの走りの良さと高効率が特徴だ。

著者:内外出版/月刊自家用車