杉野宣雄さんが提唱する「押し花アート」は、花の美しさをそのまま残せるのが魅力です。化学の力を応用することで自然の色のまま長期保存できるのですが、もちろん最初からそうだったわけではありません。今回は、押し花の歴史と進化をご紹介します。

16世紀にさかのぼる押し花の歴史

子どもの頃、お花やクローバーを新聞紙や本に挟んで押し花にする、といった経験をお持ちの人も多いでしょう。何ともなしに作っていた「押し花」ですが、一体いつ頃から人は「押し花」を楽しむようになったのでしょうか?

 

押し花の始まりは、16世紀頃といわれています。押し花の歴史は植物標本の歴史でもあるといわれ、イタリアの植物学者が研究のために、標本として押し花を残していたと文献にあります。

 

19世紀にはビクトリア女王も押し花を愛好し、作品を額装に飾っていたといわれます。当時はカラー印刷技術が始まったものの大変に貴重なもので、カラー印刷のカードやチケットなどを押し花とともにアートとして残すといった流行もあったそうです。

古い押し花作品

ヨーロッパは気候が乾燥しており、押し花が作りやすかったという事情もありました。

ひるがえって日本では、江戸時代に滝沢馬琴が押し花帳を作っていたのは有名です。湿度の高い日本では花を乾燥させることが難しく、それがかえって日本の押し花技術を発達させていきました。

「押し花」を愛したグレース・ケリー

絶世の美女と謳われ、20世紀を代表するハリウッド映画界のトップ女優として活躍したグレース・ケリー(1929−1982年)。人気絶頂の中、モナコ公国レニエ3世公と結婚しモナコ公妃となりました。

 

公妃としてモナコ公国を支える中、花を生活の一部とし、花のある暮らしをしていたグレース公妃は「押し花」に出合い、瞬く間にこの美しい花の表現方法に魅せられたと伝えられています。

グレースケリーの本表紙

2006年には、所蔵の押し花作品と写真が日本でも公開されました。現在は、モナコ公国のグレース・ケリーミュージアムに展示されています。

グレース公妃が創作した押し花画には、「花を愛する人なら誰でも押し花絵を描け、自分の世界を築けるのです。それはとても素晴らしいことです」という愛のメッセージが記されています。

「進化」する押し花の魅力

近年の「押し花」技術というものは目を見張るほど素晴らしく、大きく進化を遂げています。

乾燥技術や保存方法は当然のこと、押し花を作るための道具についても格段に進歩しています。そのため、押し花がより身近になり、花の持つ美しさはそのままに、押し花の楽しさを追求できるようになっています。

花、植物といった自然のものとふれあうことで、時には喜びにも、癒やしにもなる「押し花アート」。新たな趣味としてもおすすめです。