【正解のリハビリ、最善の介護】#21

 以前、お話ししたように、“人間力”を回復させるための正しいリハビリを受けられる回復期病院を選ぶ際は、「力量のある主治医が在籍してるかどうか」が重要なポイントになります。

 リハビリ主治医の力量によって患者さんの回復度合いは大きく変わり、主治医は、睡眠、栄養、投薬など多岐にわたる状況の管理が求められます。「排泄障害」もそのひとつです。患者さんが自宅退院するために最も重要な日常生活動作が、「自分でトイレができるようになる」ことだからです。

 排泄障害には、排尿困難や頻尿などの排尿障害、便秘や下痢などの排便障害があります。何らかの病気や外傷によって尿や便を排泄する機能そのものが障害されて起こるだけでなく、運動機能の障害や衰えによってトイレに行けない、便座に座れない、下着の着脱ができないために起こる場合もあります。

 こうした排泄障害を回復させるには、障害の病態をしっかり把握したうえで、薬の内服とリハビリで治療する必要があります。

 脳卒中や脳外傷、骨折外傷、肺炎、大きな手術などで急性期病院に入院となった場合、軽症者を除いた介助が必要になる患者さんは、食事やトイレはすべて自分のベッド上で行うことになります。急性期病院にはトイレ介助を実施するだけのマンパワーがないためです。こうなると、患者さんの排尿や排便の機能は低下していきます。さらに、ベッド上でずっと安静にしていることで手足の筋力が低下してきて、動けなくなってしまいます。

 このようにして排泄障害が生じた患者さんの排尿や排便を改善するには、ベッドからできるだけ早く起き上がらせて覚醒を良くし、立たせて、歩かせて、体力をつけることが必要です。その際、腹筋や骨盤底筋を強化する「立ち座り訓練」のリハビリが有効になります。イスから立って、また座って……を繰り返す訓練で、連続30回を1セットとして最低でも1日3セット(合計90回)行うリハビリです。

 また、患者さんが自分でトイレができるようになるためには、ベッドから起き上がって、伝い歩きでもいいから歩いたり車イスを使うなどしてトイレに行って、下着を下ろして、排泄して、洗浄して、自分で拭いて、下着を上げて、手を洗って、清潔を管理して、ベッドに戻る……といった動作が必要です。これらの日常生活動作を回復させるには、作業療法士と理学療法士、さらに看護師や介護士、家族によるリハビリ訓練がとても重要になります。

 ほかにも、脳卒中や脳外傷、脊髄損傷により、排泄機能が直接障害を受けるケースがあります。たとえば、脳卒中を発症すると、その直後に膀胱は弛緩性になり、膀胱が縮まずに尿が出なくなってしまう場合があります。ついには、膀胱がパンパンに拡張して、尿があふれると漏れるようになります。この場合、動くと常にあふれて漏れた状態になるので「頻尿」になります。

■排泄の状態が良好になると睡眠が良質になり食欲も向上

 こうした病態のために、急性期治療では尿道カテーテルを留置されることが多いのです。その後、状態が安定してカテーテルが抜去されれば、自尿ができるようになります。しかし、脳卒中の治療から1〜3カ月もすると、今度は膀胱が緊張してきて尿を十分にためることができなくなり、再び頻尿となります。

 治療介入が行われる急性期でも、病状が安定してきた亜急性期でも、同じく頻尿が生じるのですが、その病態は膀胱が弛緩しているか、緊張しているかで、まったく逆の状態になります。つまり頻尿は、膀胱を縮めるか、拡張するか、病態によって正反対の内服治療が必要になるのです。病態の診断は、排尿前の膀胱に残る残尿を測定すれば、多いか少ないかでわかります。ですから、頻尿などの排泄障害を気持ちよく改善させるには、病態をきちんと判断する主治医の力が大切です。そして、急性期で使用される膀胱カテーテルは基本的には全例抜去は可能となります。

 排便の状態も、脳卒中では腸の活動が低下して便秘になります。ほかの病気でも、長期の臥床が続くと腸の活動が低下して便秘になります。便秘の治療では薬がたくさん使われていて、多剤を併用される傾向も散見されます。しかし、われわれはシンプルな内服治療を行います。

 基本は桃核承気湯という漢方薬を1.25グラムから7.5グラムまで使い分けます。これで不十分な場合は、酸化マグネシウムで便性状を軟らかくすることで便秘を改善でき、イライラや不眠の改善にもつながります。

 便秘の改善にはリハビリも欠かせません。離床して、起き上がって、立ち座りをして、腹筋と骨盤底筋を積極的に鍛えることが重要になります。

 また、「下痢」の発生時は迅速に整腸剤で改善することが必須です。治療が遅れると皮膚のただれが生じます。便秘に下剤を使いすぎて、整腸剤も追加で処方しているケースも見かけますが、便秘は最低量の下剤内服で改善させることが大切です。

 排尿や排便の状態が良好になると、睡眠が良質になり、食欲も向上し、精神状態も穏やかになります。排泄機能の改善には、内服治療だけでなく、リハビリがとても重要なのです。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)