今年4月から「医師の働き方改革」がスタートした。

 これまでたびたび問題になっていた過酷な長時間労働を改善するため、国が医師の時間外労働=残業を制限する法律を施行。原則すべての医療機関(開業医は除く)を対象に年間の時間外労働は960時間以下に制限された。救急医療や研究・教育などのために長時間労働が必要な医師は年1860時間という特例も設けられたが、多くの医師は労働時間が大幅に短縮されることになる。

 厚労省の調査では2019年時点で38%の医師は残業時間が年960時間を上回り、9%が1860時間を超えていた。医師の命と健康を守るために必要な改革であるのは間違いないが、現状ではこれまでのような医療サービスを維持できなくなる医療機関が出てくる可能性が高い。

 われわれ患者にどのような影響があるのか。循環器専門医で東邦大学名誉教授の東丸貴信氏は言う。

「医師の就労時間が制限されることで全体的な医療サービスの低下は避けられないでしょう。高度医療を提供する大学病院や都市部にある大規模な急性期病院はこれまでと同程度の医療を維持できると思われますが、中規模の病院や人口が多い割に病床数が少ない地域では難しいかもしれません。アルバイトで派遣されてくる医師も制限されることで人員不足が予想されますし、実際に、救急搬送の受け入れを制限したり診療体制を縮小する病院も出てきています」

 救急医療、とりわけ24時間体制の循環器救急を維持するには少なくとも8人の医師が必要だと試算されている。

 緊急の冠動脈カテーテル治療(PCI)を8人に満たない数人の医師で回している医療機関もあるが、いずれにしても救急医療の現場で人手不足が加速するのは間違いない。

■信頼できる主治医を持つ

 厚労省が実施した「医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査」では、全国49の医療機関が大学などからの派遣医師の引き揚げによる診療体制縮小が見込まれると回答している。もともと医師が少ない病院や診療科では24時間体制のシフトを組めなくなる可能性がある。

「こうした状況で従来の診療体制を維持するには、勤務医師数を増やしたり、医師の偏在を解消することが必要です。そのためには勤務医の給与を見直して引き上げる必要があります。しかし、わが国の財政事情では急性期病院への大きな財政支援は難しい状況です。むしろ、今回の改革の影響でトータルの収入が減る勤務医も多く、急性期病院の勤務医を辞めるケースも予想され、人手不足がさらに深刻になる可能性もあります。そうなれば医師数が少なく救急医療体制が整えられない病院は、他の病院と統合したり救急医療連携をせざるをえなくなります」

 実際、地方のある病院は救急搬送の受け入れを縮小し、救急の患者は40分以上かかる隣県の病院まで搬送してもらうという。

「患者側は、今回の改革によってこれまでのような“コンビニ的”な医療サービスを受けられなくなる可能性があると想定して対策を講じておきましょう。まず、持病がある人や高齢者は信頼できる主治医を持っておくことが重要です。何かあれば高度医療を受けられる大病院にスムーズに紹介してもらえます。また、定期的に精密な人間ドックなどを受け、自分の健康状態を把握しておくことも大切です。これらのデータがあれば主治医は重病予防のための対策を打てます。普段から持病をきちんと診てもらっていれば、急病で高度な医療処置が必要になるリスクが減りますので、限られた搬送先を探すケースが少なくなります」

 医師の働き方改革に合わせ、患者側の心構えも改めておきたい。