【科学が証明!ストレス解消法】#162

「ストレスは体に悪い」ということは、今さら説明するまでもないと思います。しかし、実際にどれくらい悪影響を及ぼすものなのかきちんと認識している人は少ないかもしれません。漠然と「ストレスは良くない」と思っているから、なるべく嫌な相手とは付き合わない、なるべく嫌なことはしない--。そうした考えに至っているのではないでしょうか。

 北海道大学の村上らはストレスの恐ろしさについて重要な意義を持つ実験(2017年)を行っています。この研究では、マウスを睡眠不足にさせたり、床敷を濡らしたりすることで慢性的なストレスを与え、その上で多発性硬化症という脳や脊髄などに硬化が起きる病気とストレスの関係を調べました。端的に言えば、ストレスによって胃腸の病気や突然死は引き起こされるのかを検証したのです。マウスは次の3つのタイプに分けたといいます。

 ①ストレスを与えただけのマウス②ストレスを与えず、多発性硬化症の免疫細胞を注入したマウス③ストレスを与え、血液に免疫細胞を注入したマウス。

 その結果、①と②には特に変化はなかったのですが、③は7割が1週間ほどで突然死したというのです。つまり、炎症を引き起こす病原性の免疫細胞が血中にある場合、ストレスが引き金となって病気を招くことを突き止めました。私たちが考えている以上に、ストレス過剰な状態は、深刻な病気につながってしまうんですね。

 とはいえ、社会を生きていく上で、仕事関係や対人関係などでストレスをゼロにすることはできないと思います。組織の中にいる以上、自分でコントロールできないことはたくさんあります。しかし、最低限の食事や睡眠環境は自分でコントロールできるはずです。特に、睡眠は脳の状態を健康に保つためにも重要だと分かっています。

 世界に比べ、日本人の平均睡眠時間は短いといわれることがあります。単に短いだけならまだしも、近年は眠る寸前までスマホやタブレットなどを眺めてしまうため、交感神経がオンのまま眠る人が増えました。眠りの質が悪ければ、その分、ストレスも逃げづらくなってしまいます。

 ボストン大学のファルツらの研究(19年)で、睡眠中(特にノンレム睡眠中)は脳内液体の循環スピードが3.5倍に高まるという報告があります。循環スピードが高まることで脳内のいらない物質をきれいに洗い流している。すなわち、質の高い睡眠を取るほどストレス物質などを取り除いてきれいな状態にしてくれ、翌朝には良い状態で目覚めることができるというのです。

 人間は生きていく中で、すべてのストレスをコントロールすることはできません。何かに囲まれ、誰かと接触する以上、どこかでイライラや不安を抱えます。だからこそ、ひとりでもコントロールできる睡眠の質を高めることが、重要なストレスコントロール術となります。

 眠る直前のスマホいじりなど交感神経を刺激することは控え、代わりにストレッチをして体の緊張をほぐすなどしてみてください。住環境や寝る前の習慣を大切に。

(堀田秀吾/明治大学教授、言語学者)