【「不登校」「ひきこもり」を考える】#7

 前回まで、不登校やひきこもり、ひいては精神疾患の原因には「感情不全」が潜在し、それが生じる背景には親子間のボタンの掛け違いの影響が極めて大きいというお話をさせていただき、具体例として男性Aさんのケースを紹介しました。

 今回は、その対応の何が問題だったのだろうか?を振り返ってみましょう。実は、ご両親の対応自体は、正解とも言えるし不正解とも言えるのです。実際、弟さんには特に問題にならなかったのですから。一方で、兄であるAさんにはもう少し違ったアプローチができたのではないか?ということを、今となっては言えるかもしれません。つまり、お子さんの性格の繊細さや感受性といった個人差に合わせて、よりきめ細かい配慮があったか否か、ここが重要なポイントとなるのです。

 同じように育てていても、そこまでの繊細さを持ち合わせていない子であれば、たとえ多少親子のコミュニケーションとしては賛否あるようなものだったとしても、特に問題などなく「俺は俺」「私は私」とマイペースにすくすく育っていくケースも決して少なくありません。親子の行き違いが行き過ぎた場合には、ちゃんと自己主張もしてくれますから、親からみても問題点がわかりやすいですし、逆に本当に強さのある子は「この親には期待してもだめだ」と早々に親を見限り、家を出るという行動にも出られます。

 一方で、それがどうしてもできない繊細な子も存在するのです。どうして?と思うようなささいな一言にいとも簡単に傷ついてしまうような、特に親よりもはるかに繊細なガラスのハートの持ち主だった場合、これは要注意です。

■感情不全とは自らの本音感情を押し殺し隠すことに長けた結果

 感度で劣る親には、繊細な子が何を感じているか、何に傷ついているかがまったくといっていいほど見えない世界で、そのお子さんは生きています。だから、お子さんは親御さんが思う以上に繊細なのでは?と言っても、「そんなことないでしょう。うちの子は好き放題言っているし、やっていますよ」との認識をされている親御さんも少なくありません。でもそれは、一番核心的なことがわかってもらえない「しわ寄せ反応」で、不適切な怒りや恐怖といった感情が膨れ上がりコントロール不良になったり、暴言暴力、過食や買い物などの依存行為などの問題行動を、「好き放題、やりたい放題」と表面だけしか見えてない証拠でもあるのです。

 まるで望遠鏡と顕微鏡を使って、それぞれが同じものを眺めてもピントが合わないような親子の世界観の違いは、当然、互いにまるで理解しあえません。そのためズレが長期化するほど、不登校やひきこもりになるようなお子さんは、「うちの親は自分のことなど何も理解してくれない」「何か言ってトンチンカンな反応をされても面倒くさいだけから、波風を立てるより自分が大人になれば丸く収まる」と考えるに至ります。

 逆に親御さんの方は「うちの子は何度言うことを聞いても同じ話を何度も繰り返すのでいい加減うんざりしている」「正直、うちの子が何を考えているかわからない」と口を揃えて言います。そのうち「親としてはもう限界だ! いい加減にしなさい」と逆ギレすらされている方もいるほどです。

 感情不全とは、周囲に、特に理解してもらえないことで傷つき、自らの本音感情を押し殺し隠すことに長けた結果です。感じなければいけない自らの大切な感情までも感度が麻痺し、その煽りを受けて、どうでもいい不要な感情や感覚、衝動や行動が肥大化してコントロール不良となってしまう。その結果、感情の制御不良や抑えの効かない問題行動といった病的現象を生じさせるという生体反応のことを意味するのです。

▽最上悠(もがみ・ゆう)精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。