【マイナス50万円の家が登場!!】〜田舎の不動産価値を考える〜 相続義務化でいよいよリアル「負動産」の時代に!

2024年4月から相続登記のルールが変わりました。その影響で田舎の不動産業界に走る激震……。今後、田舎の空き家市場で何が起こるのか? しっかり時勢を読んで、ピンチとチャンスが表裏一体となる今を賢く乗り切ろう。

 今回は、愛媛県の松山市沖に位置する、9つの有人島と大小30以上の島々で構成される忽那諸島(くつなしょとう)の空き家物件を紹介する人気YouTube「離島の空き家」を運営するNPO法人農音の田中佑樹さんに取材しました。

相続登記の義務化が引き金となって、放置されていた空き家が掘り起こされる

 不動産登記法の改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。

 ……と、急にそう言われても、一体何がどう変わるの??という人も多いと思います。

 わかりやすい例を挙げると、「田舎の実家が亡くなった祖父母の名義のまま」だったり、「毎年、故郷の家や土地に関する納税通知書が届くので、よくわからないまま支払っている」という方は罰則の対象になる可能性が高いので、少し気にしてみてください。

| 改正の留意点

改正の主な留意点は以下の2つです。

3年以内に相続登記しないと10万円以下の過料が科せられる可能性がある
2024年4月1日以前の相続も、2024年4月1日から3年以内に登記の義務がある

「NPO法人農音では、空き家バンク『離島の空き家』の活動で150軒を超える空き家を取り扱っていますが、そのなかで相続未登記の物件が非常に多い現実を目の当たりにしてきました。

 相談を受ける物件の6〜7割が亡くなった方の名義のままになっているのです。相続登記にはだいたい15万円前後のお金がかかりますが、誰だって使う予定のない家にお金をかけたくないというのが正直なところでしょう。登記という言葉自体に面倒な印象を持っている人も多いですし、登記が手付かずのまま放置されている物件が多いのは当然です。これまでは相続登記が義務ではなかったわけですから……」

長く放置された空き家は傷んでいることも多いが、骨組みがしっかりしていれば部分的な修繕で蘇る可能性大
長く放置された空き家は傷んでいることも多いが、骨組みがしっかりしていれば部分的な修繕で蘇る可能性大。

田舎の古民家を狙っている人にとっては、これからが買い時!

 『離島の空き家』の活動エリアである愛媛県の忽那諸島へは、この数年、年間に10〜20世帯が移住してきています。それに対し、『離島の空き家』に登録される物件数は今のところ年間で30軒ほど。別荘利用のニーズも加わるため、今のところは需要と供給のバランスが取れているといえます。

 今回の法改正の狙いは、主に所有者不明の不動産の整理と思われますが、そのテコ入れによって空き家市場に相当数の物件が出てくるのは予想に難くないところ。空き家の持ち主にしてみても、所有権の整理ついでに不要なものは手放しておこうと考えるのが筋です。そもそも、国の狙いも所有者不明のままの土地や建物が公共事業や災害復旧の妨げになることへの対応であり、相続登記後、それらを有効に管理・活用できる人への所有権移転まで見越してのこと。

 それはつまり、空き家バンクが整備されている地域で取り扱い物件が増えるということを示唆しています。選択肢が増えるので利用者にとっては朗報ですね。

 少なくとも忽那諸島に関していうと、今の状況で空き家の供給量だけが増えると空き家が余ると予想されます。そうなると市場原理が働き、空き家の価値は今まで以上に下落することになります。

 これは家主にとっては大問題ですが、移住希望者にとっては最高のチャンス!
(※不動産相場が下がると、時間差で移住ニーズが増えて再びバランスが整う可能性もあるため、チャンスは一時的なものかもしれません)

「負動産」を生み出す人口減少:地域の魅力発信の重要性

一般的には、地価などの不動産価値は人口密度に比例するともいわれますが、人口減少が著しい僻地ではその限りではなく、単純に「住みたい人の数」と「住める空き家の数」のバランスによって価値が決定される部分も多い。

 一般的には、地価などの不動産価値は人口密度に比例するともいわれますが、人口減少が著しい地域ではその限りではなく、単純に「住みたい人の数」と「住める空き家の数」のバランスによって価値が決定される部分も多いのが実情です。そうなると、地域ごとの住環境の魅力とそれを発信する力の有無が明暗を分けることになります。魅力を伝えられない土地では「負動産」が増え続けることになるでしょう。

「負動産時代」の幕開けか?

 相続登記に関する過料が現実化してくるのは2027年の春以降ではあるものの、すでに勘のよい家主さんたちは今後の動向を察知して、持て余している不動産処分の検討を始めています。

 その影響で『離島の空き家』では、この数年で0円の物件も増えてきています。しかも、0円で底を打ったかに思われたところ、

 先日、

 ついに0円をさらに下回る、つまりマイナス価格の物件が登場しました。

 文字通りの「負動産」物件です。

この物件の価格はなんとマイナス50万円。実際には、取り壊し、またはリフォームにかかる経費のうち50万円を売り主が補助するという形ですが、実質的には買い主は50万円ものお金を受け取ることになります。

この物件の価格はなんとマイナス50万円。実際には、取り壊し、またはリフォームにかかる経費のうち50万円を売り主が補助するという形ですが、いずれにせよ買い主は50万円ものお金を受け取ることになります

 マイナス物件の紹介動画はコチラ。

一方、別荘利用のニーズは根強く、立地条件の良い物件は状態に関わらず比較的高値で売買される傾向もあります。

 一方、別荘利用のニーズは根強く、立地条件のいい物件は状態にかかわらず比較的高値で売買される傾向もあります。

また、海辺などの家はリノベーションして宿泊施設としての活用もしやすいため圧倒的な人気です。

 また、海辺など観光やアクティビティの需要が見込める立地の家はリノベーションして宿泊施設としての活用もしやすいため圧倒的な人気です。

 コチラの動画もチェック!

 家の売値がマイナスと聞くとキツネにつままれたような感覚になりますが、家主さんにしてみれば、取り壊すのに数百万円かかるなら、多少はお金を出してでも空き家を誰かに引き受けてもらうほうが得策なのは事実です。

 また、解体して大量の産業廃棄物になるよりは利活用するほうがSDGsにつながるのも間違ありません。総じて賢明な選択でしょう。

 ただ、価格のマイナス方向への限界突破は、前例ができてしまうと連鎖的に増えていくことが予想されます。この動きが必要以上に加速してしまうと、相場そのものの低迷につながっていく危険性もあります。

 今、田舎の空き家の動向は非常にスリリングで、目が離せない状況です。