いまや、企業が発行するポイントは2.5兆円規模に達し、消費活動に欠かせないものになってきた。「ポイ活」と呼ばれるように、ユーザー側はポイントの多寡を意識して決済方法や購入店舗を決めている。一方企業側は、さまざまなサービスをポイントを軸に連携させ「ポイント経済圏」を作り、囲い込みを進めている。

 そしてポイントは複数の金融サービスにまたがり、また自社グループ以外でも利用できる、いわゆる「共通ポイント」が急速に勢力を増している。楽天グループが発行する「楽天ポイント」、NTTドコモが発行する「dポイント」、KDDIグループがかかわる「Pontaポイント」、ソフトバンクグループがかかわる「PayPayポイント」、そして三井住友グループが進める「Vポイント」だ。

 これら「5大ポイント経済圏」は、さまざまなサービスを取り込み、ポイントと連携して変化を続けている。この企画では、5大ポイントの現状をリアルタイムで追うとともに、大きな変化をもたらすトピックをチェックしていこうと思う。

●三井住友カードのクレカ投信積立で大改悪

 直近、ポイント関係の改悪として話題になったのが、SBI証券のクレジットカード積立における三井住友カードの還元率の変更だ。これまでクレカ積立額の5%を還元するという大盤振る舞いを続けてきたが、この秋から還元率を最大3%に下げる。その3%についても、年間カード利用額500万円以上という制限が新たに付いたのだ。

 ポイントは大盤振る舞いの付与を行うこともあれば、一気に蛇口を絞って「改悪」と騒がれることもある。これはポイントがマーケティングツールの一貫である以上、避けられないことだ。とはいえ、これによりクレカ積立の勢力図が大きく変化する可能性がある。その背景をひも解いてみよう。

 証券各社はクレカ積立とその還元率をウリに、ポイ活ユーザーの投資信託積立を増やしてきた。もともとこの手法で大きく顧客数と投信積立額を伸ばしたのは楽天証券で、楽天カードを使って積み立てると1%を楽天ポイントで還元することで業界トップの投信積立残高へと躍進した。

 しかし「1%も還元しては赤字でもたない」とついに宣言し、2022年秋に人気投信において還元率を0.2%まで下げた。この機を逃さなかったのが、競合ネット証券各社だ。SBI証券、マネックス証券、auカブコム証券はそれぞれクレカ積立をスタート。楽天証券の改悪で離れたユーザーの獲得に動いた。

 中でも高還元で目を引いたのがSBI証券だ。22年12月、SBI証券は三井住友カードと組み、三井住友プラチナプリファードカードにおいて5%をVポイントで還元し始めたのだ。

 そもそもプラチナプリファードは年会費3万3000円というハイクラスカードだ。ところが月間5万円、年間60万円のクレカ積立を行うと、その5%は3万円にもなる。「実質3000円でプラチナプリファードが使える!」という口コミもネットで広まり、これまでプラチナカードに関心がなかった層まで新規に加入した。

●各社の還元策

 こうした効果もあり、SBI証券の投信積立設定額は急増する。23年末には1067億円まで増加し、1547億円の楽天証券を急速に追い上げてきた。楽天に代わり、クレカ積立といえばSBI証券×三井住友カード――そんな雰囲気さえあった。

 ところが、金融庁が進めた規制緩和がそのバランスを崩してしまったのだ。これまでクレカ積立は月間5万円が上限という実質的な規制があった。ところがこの額では年間120万円の新NISAつみたて投資枠を埋められない。そのため規制が緩和され、3月から月間10万円までクレカ積立が可能になった。

 一見、ユーザーにとっても証券会社にとっても10万円への上限拡大はいい話だ。ところがポイント還元については各社難しい選択を迫られることになった。還元率を変えなければ、付与するポイントが2倍になってしまうからだ。

 各ネット証券とカード会社が取った新たな還元策はざっくり以下のとおりだ。

・楽天証券:還元率維持

・auカブコム証券:還元率維持

・マネックス証券:5万円までは維持、以降段階的に還元率低下

・SBI証券×三井住友カード:還元率大幅低下

 勝手な感想をいえば、還元率を低くしていた楽天証券は増額にもそのまま対応できた。auカブコム証券は1%の還元率を維持し、要するに10万円積み立てれば還元ポイントが倍になるという攻めた施策を取った。マネックス証券は5万円まで1.1%という高還元を維持しつつ、段階的に還元率を下げることで、10万円積立時は0.73%となるようにした。各社それぞれ方向性は違うが、苦心したあとが見られる。

 ここで最も難しい対応を迫られたのがSBI証券と三井住友カードだ。プラチナプリファードの5%還元を10万円までそのまま適用したら、還元ポイントは6万ポイントにも達してしまう。年会費3万3000円を大きく上回る額だ。さてどうするか? と思っていたところ、取ってきたのは高額カード利用者優遇策だった。

 具体的には、ベースの還元率を1%に大きく下げた上で、年間カード利用額が300万円以上なら+1%、500万円以上なら+2%するというもの。500万円以上カードを利用する人なら3%還元になるので、年間で3万6000ポイントが還元される。これまでは3万ポイントだったので、ここだけ見れば改善だ。ただカードで500万円の買い物をする人がどれだけいるだろう。

 要するに、そもそも年会費3万3000円もするハイエンドカードだったプラチナプリファードだが、クレカ積立5%施策の結果、カードショッピングをあまり利用しない層も保有するようになった。これがよかったのか悪かったのかは分からないが、三井住友カードとしては方針を転換し、カードをたくさん使う人のためのカードに位置付け直したということだ。

●ポイント経済圏の現況

 最後に5大ポイント経済圏の現況をまとめておこう。矢野経済研究所がまとめた国内ポイント市場調査によると、22年度のポイントサービス市場規模は約2.5兆円だった。これが23年度は2.6兆円、24年度は2.7兆円、25年度は2.9兆円と増加する見込みだ。

 そのトップを走るのは楽天ポイントで、23年の年間発行ポイント数は約6500億にのぼる。この1年はSPU(スーパーポイントアッププログラム)の大変更もあり、発行額はほぼ横ばい。第4四半期だけ見れば前年を下回っている。それでも最も強固な経済圏を構築しているポイントだといえるだろう。

 楽天ポイントをライバル視し、急速な追い上げを見せているのがPayPayポイントだ。22年度(22年4月〜23年3月)の発行ポイント数は6000億に達し、楽天ポイントが伸び悩む中、首位を狙う。ただし23年4月の発表を最後に、発行ポイント数の公表を行っていない。楽天ポイントを意識した発言も多い中、抜いたのであれば発表するように思うが、現状は不明だ。

 ダークホース的に成長を続けているのが、NTTドコモが展開するdポイント。広報部によると会員数は23年12月末時点で約9900万人に達しており、23年の利用額は3561億ポイント。楽天などはポイントの使用率が90%以上、つまり発行したポイントの9割が利用されるとしており、同等の数字をdポイントにも当てはめると約3956億ポイントを発行していると推定される。楽天/PayPayの半分程度の規模まで迫っている。

  歴史も長く多方面に浸透していると見られるのが、三菱商事系でKDDIも出資するロイヤリティ マーケティングのPontaポイントだ。元はローソンなどを中心とした共通ポイントだったが、19年にKDDIと資本提携しポイントを統合。現在はKDDIグループが担ぐポイントとなっている。

 19年12月にau WALLETポイントとPontaが統合した際の発表会では、年間付与額が2000億円を超えるとしていたが、その後の発行額の公表はない。ただし「会員数は1億1495万人」(KDDI広報部)となっており、会員数だけでいえばdポイントを上回る。

●台風の目となるのはVポイント

 そしてこの春台風の目となりそうなのが、Vポイントだ。共通ポイントの嚆矢であるTポイントは、4月に三井住友グループのVポイントと統合が決まっている。23年11月末時点でのTポイントの有効会員数は1.3億、Vポイントは2200万を数える。年間1回以上利用し、複数カードを保有している人を名寄せしたアクティブでユニークな会員数は、「TとV合計で8600万人」だと23年6月に行われた発表会では説明している。

 Vポイントは、5大共通ポイントの中で唯一通信キャリアとのつながりをもたない。これが弱みでもあり、強みでもある。また三井住友グループの証券会社であるSMBC日興証券ではなく、SBIホールディングスとの連携も強めている。つまり、5大ポイント経済圏の中で、銀行と証券ではトップ、カードでは楽天カードとライバル関係にある構図だ。

 4月にVポイントがTポイントと統合し、新たな船出をするタイミングで、今回の三井住友カード×SBI証券クレカ積立改悪はちょっと味噌を付けてしまったともいえそうだ。統合は4月22日。どんな挽回策が出てくるかも楽しみにしたい。

(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)