ソフトバンクは9日、2024年3月期の連結業績を発表した。売上高は前年比3%増の約6兆840億円、営業利益は同17%減の8761億円だった。営業利益は前年度のPayPay子会社化に伴う再評価益の影響で減益となっており、再評価益の約2948億円を除くと14%の増益となるため、「実力ベース」(宮川潤一社長)では増収増益となった。

 特に主力のモバイル事業が増収となったことで、携帯料金値下げによる影響を脱したことが貢献。モバイルの減収をカバーするために注力していたエンタープライズなどその他の事業が好調で、全セグメントでの増益となった。

 宮川社長は、これまでに上方修正していた通期予想をさらに上回る業績となり、中期経営計画での予想も上回る見込みとして、予想超過分を生成AIなどの成長投資に振り分ける方針を示した。

●「ようやく」増収に転じたモバイル事業、全セグメント増益に

 コンシューマー事業におけるモバイル売上高は、携帯料金4割値下げという官製値下げ以降、減収が続いていた。2023年5月の中期経営計画では2023年度を底に反転して2024年度から増収になるとしていた。ところが実際は2022年度の時点で底を打ち、2023年度に前倒しで反転して増収になった。

 営業利益も同様に2022年度を底に反転する計画だったが、計画以上に利益が積み重なり、増益幅が拡大。255億円の上方修正となった。中期経営計画でスマートフォン契約数を年100万水準で純増を続ける予想が、2023年度には147万増と順調に伸びていることも奏功した。

 月額料金の値下げに対して付加価値サービスや新サービスによってARPU(1ユーザーあたりの月間平均収入)を向上させる取り組みも順調で、PayPayを始めとしたグループ経済圏をさらに拡大・強化していく方針だ。

 宮川社長は、携帯料金値下げ後すぐに社長就任した2021年4月以来続いていた減収から増収に転じたことについて、「2年半、本当に胃が痛い思いでありとあらゆることを勉強し、各店舗も回った」と振り返って、「長いトンネルをようやく(抜けた)」と安堵(あんど)する。

 結果として他の事業も伸びてモバイルが反転し、中期経営計画の目標を上回る想定となったことで「思った以上に去年(2023年)はよかった。実は今期は本当に楽」と自信を見せる。

 さらに、現在の1株を10株に分割することで投資金額を引き下げて、新たに株主優待としてPayPayポイント1000円分(1単元あたり)を進呈する。これによって実質利回りが10.1%まで拡大することで、特に若年層の個人株主層を拡大したい考え。若年層株主によって長期的な成長にとって重要だと宮川社長は強調する。

 モバイル事業では5Gネットワークが前年比2万局増の8.5万局まで拡大し、5G人口カバー率が95%を超えた。5Gの利用率も40%以上の向上となったが、現状は4Gの転用が主力。5G SAの早期拡大を図るために、KDDIと協業して5G JAPANを設立したソフトバンクは、アンテナ、無線機、伝送路を共用として3.8万局以上を構築。CAPEXの削減効果は450億円以上に達したという。

 これが成功したことから、地方都市の5Gのみという協業範囲をさらに拡大し、全国で4Gと5Gの基地局を共同構築することにした。2030年には累計で10万局、CAPEX削減効果1200億円を目指す計画だ。

 この5G JAPANは、2020年にスペイン・バルセロナから帰国する際に田中孝司KDDI会長と同じ部屋になり、そこで「5Gへの投資は(従来と)桁違いになる」という話になったという。両社のユーザー数やカバーすべき国土の広さを考えると、エリア構築に苦戦するという認識で一致した。さらに携帯料金値下げが話し合いを加速させて5G JAPANへとつながったそうだ。

 現状は10万局を目指すが、「全然足りない」と宮川社長。5Gに続く6Gはさらに基地局が必要になると予想され、こうした取り組みはさらに拡大していく見込みだ。なお、他に楽天モバイルやNTTドコモが5G JAPANに参加したいという場合「ウエルカムだが、簡単ではない」という。両社がこれまで協議して取りまとめた仕組みのため、参加する場合は同様の議論が必要で、「時間はかかるが議論を進めることは可能」というのが宮川社長の判断だ。

 エンタープライズ事業も中期経営計画の目標通り、売上高、営業利益ともに前年比2桁成長となるそれぞれ16%増、13%増を達成。今後も継続して拡大を目指す。

●PayPayは2023年度に大幅な赤字縮小、金融事業は24年度に黒字化へ

 LINEヤフーによるメディア・EC事業は、営業利益が24%増となるなど順調に成長。ただ、懸案となっているセキュリティガバナンスの取り組みの解決が見通せない状況だ。総務省からは韓国NAVERとの資本関係見直しも視野に対応が求められ、LINEヤフーの親会社となるソフトバンクとNAVERのトップ会談も続けられているというが、総務省への報告書提出期限である7月1日までに結論に達するのは「直感から言うと非常に難易度が高い」(宮川社長)との見込みで、今後も協議を継続していく。

 PayPayなどのファイナンス事業は、2023年度に大幅な赤字縮小を果たし、2025年度までの黒字化という計画に対しては、2024年度に黒字化を達成する見込みだ。背景としてPayPayが好調で、決済取扱高の順調な伸びに加え、6304万人に達したユーザー数が「いまだに伸び続けている」(同)状況だという。EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)は2023年度に初めて黒字化していて「PayPayはまだまだ伸び代がある。(成長が)鈍化するという言葉が出るのはまだ早い」と宮川社長。

●上振れした利益を生成AIに投資

 中期経営計画では2025年度に営業利益を9700億円とする計画だったが、予想を上回る利益で推移していることから、2025年度には1兆円強に達する見込み。そのため、計画の9700億円から上回る部分を成長投資として、生成AIなどへの投資に振り分けることにした。

 そのため、まずは生成AIの計算基盤となるハードウェアを強化して、計算能力を37倍に増強する。最新の計算基盤であるNVIDIA DGX B200を世界で初めて導入するために1500億円を投入。そのうち421億円は経済産業省の補助金を申請しており、1100億円程度を自社でまかなう。

 これによって開発中の国産LLMを1兆パラメーターに拡張し、計算基盤の外部貸し出しなどの事業につなげる。また、マイクロソフトと共同でコールセンター業務の自動化ソリューションを開発するなど投資を継続する。

 さらに構築を目指す次世代社会インフラでは、NVIDIAらとAI-RANアライアンスを設立。AIとRANを同じ設備で稼働させる「AI and RAN」などへの投資は、5Gの進化や次世代の6Gといったモバイル事業への投資にもつながるというのが宮川社長の見解だ。