hydeという神秘的なカリスマ

 L'Arc〜en〜Cielというバンドのビジュアル面含めてのインパクトは、フロントマンであるhydeの存在なくして語ることはできないだろう。色白で綺麗な顔立ちとウェービーヘア、小柄でヒラヒラとした衣装を靡かせて歌う姿は、中性的や女性的というよりも、ファンタジックで天使、妖精という表現がしっくりくる。hyde、L'Arc〜en〜Cielにいざなわれ、霧の深い森の中へ迷い込んだ感覚を味わった人がどれほどいたことか。

L'Arc〜en〜Ciel「眠りによせて」(1994年)

 そうした神秘的なヴェール、覆われていた霧が晴れてきたのがメジャーアルバム『Tierra』である。オープニングを飾る「In The Air」のイントロのベースフレーズは初夏の木漏れ日を感じさせる明瞭なもの。とはいえ、バンドのイメージや音楽性が大きく変わっているわけではない。『DUNE』をさらに進化、いや神化させた崇高さを感じさせるものである。

“メジャーに行ったら変わってしまった”という古参ファンを残念がらせることもなかった。ただ、良くも悪くもの展開がひとつあったとしたら何の前触れもなく、hydeがCMに出演したことだろう。富士フイルムイメージング株式会社(現・富士フイルム株式会社)が展開していたカセットテープブランド“AXIA”のCMである。

 女優と共演していたからという僻みではなく、“バスに乗っている”というシチュエーションの“日常感”に賛否両論が巻き起こった。非日常感の塊のようなhydeが、日常に溶け込んでいる違和感である。とはいえ、ステージ上でのhydeは非日常的で“人間的ではない”ことに変わらなかったのだから、そこまで問題ではなかったのかもしれない。むしろ、「あの美男子は誰?」という一般層への訴求力があったのだから、話題性を考えれば成功であった。

 そうしたhydeのビジュアルイメージの変化がバンドのイメージを大きく変えていったことは事実であり、幻想的な“ヒラヒラ服”からの脱却をメジャーデビュー後、徐々に見せ始めていた。

L'Arc〜en〜Ciel「Vivid Colors」(1995年)

「Vivid Colors」(1995年)MVでの私服ライクなパンツ姿や、アルバム『heavenly』(1995年)を提げてのツアーでの、トレードマークであったウェービーなロングヘアをバッサリ切ったことは大きな衝撃であった。

 ただ、こうしたビジュアル面での変化はhydeに限らず、BUCK-TICKの櫻井敦司、X JAPANのYOSHIKI、LUNA SEAのRYUICHIといった面々がトレードマークのロングヘアをバッサリ切っていたりと、冒頭で述べたヴィジュアル系という言葉への反抗的な意味合いとして、「見た目で判断されるのは御免」という意思表示が当時のシーンのアーティストにあったのである。

L'Arc〜en〜Ciel「HONEY」(1998年)

「HONEY」(1998年)で、hydeは短髪でギターを掻きむしりながら歌うロックスターのアイコンとなり、現在に通ずる年齢不詳、国籍不明のセクシーでワイルドなロックスター像は確立された。ヘヴィミュージックを掻き鳴らすダーティなソロアーティスト・HYDEも、THE LAST ROCKSTARSが“LAST ROCK STAR”たる所以も、海外バンドのフロントマンのごとき佇まいのhydeの存在があるからこそのものだと感じている。