【サンパウロ時事】岸田文雄首相は4日午後(日本時間5日午前)、ブラジルのサンパウロ大学で中南米政策をテーマに演説した。食料や資源が豊かな中南米で日本企業の活動を後押しする方針を表明。中国が豊富な資金力で進出していることを念頭に「力や威圧ではない、信頼に基づく経済関係こそが公正な豊かさにつながる」と訴えた。

 首相は「近年、世界各地で『債務のわな』が問題視されている」と指摘し、日本は「環境、人権に重きを置き、真に持続可能な成長を地域社会との協働の中で実現する」と強調。中国の名指しは避けつつも、「経済的圧力を背景に、特定の行動を強いる経済的威圧などは到底認められない」とけん制した。

 首相は「この10年で中南米に進出する日本企業の拠点数は1000以上増加した」と紹介。「日本企業の活動は新規産業の創出や安定した質の高い雇用を生み出し、格差や貧困の解消に貢献する」とアピールした。

 昨年の国連総会で提唱した「人間の尊厳が守られる世界」実現に向け、中南米は「かけがえのないパートナー」だと呼び掛けた。協力の方向性として、(1)法の支配に基づく国際秩序の確保(2)気候変動など人類共通課題の克服(3)誰も犠牲にしない繁栄の追求―を掲げ、国連安全保障理事会改革や移民問題、脱炭素、質の高い雇用創出などに注力する考えを示した。