地域ごとの文化が如実に現れるものといえば、冠婚葬祭などの行事ではないでしょうか。特に葬儀は今でも厳密な決まりが存在しており、「香典で包む金額」「出棺時に棺にいれるもの」「お通夜・火葬の順番」など地域差が見て取れます。国内だけでも違いが出るわけですから、国が変わるとより大きな違いがあるのは当たり前。西インド洋に浮かぶ島国「マダガスカル」においては、日本の常識とはかけ離れたものなのだとか。かつてマダガスカルに滞在し、現在はカフェ「旅cafe黄色い家」(大阪市北区)を営む鴨下裕充さんに、マダガスカルの葬儀事情を聞きました。

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 19歳の頃、初の海外一人旅でマダガスカルを選んだ鴨下さん。1か月ほどの滞在期間中は「コンパスひとつでマダガスカルを自転車旅」「村人からラップバトルを挑まれ勝利」「現地の薬局で1日店長」など、いくつもの濃い体験をしました。中でも印象的だったというのが、仲良くなった村人に誘われて参加した“葬儀”だといいます。そもそも「友人に誘われて葬儀に参加する」ということ自体日本ではほぼ無いに等しいことですが、はたしてどういった葬儀だったのでしょうか?

「マダガスカルには『お葬式』や『お通夜』のような概念はありません。死者を火葬する文化が無いため遺体は布で巻かれ、ミイラのような状態でお墓に安置します。この布が経年劣化でボロボロになってしまうので、数年に1度のタイミングで補強のため新しい布を巻き直すんです」(鴨下さん)

 この儀式のことを、マダガスカルでは「ファマディハナ」といいます。内容こそ異なりますが数年周期で家族や親戚を集めておこなうため、日本でいう「年忌法要」と近いものかもしれません。ファマディハナは、3日間にわたっておこなわれます。日本での葬儀は一般的に1日で終わるため、かける日程も大きな違いといえるでしょう。

「僕が参加したのは、儀式の中日にあたる2日目からです。夜に食べるごちそうのために、昼間から村人総出で牛や豚を解体し料理を作ります。夜は参列者が故人のミイラをかつぎ、踊り続けます」(鴨下さん)

 日本での葬儀では、参列者たちは静かに過ごすのが常識。ですが、マダガスカルの儀式はとても賑やかかつカラフルで「フェスティバル」といっても過言ではないそうです。

「宗教や死生観が日本とは異なるせいか、とにかく明るい雰囲気でしたね。葬儀の主役である故人のミイラを『これ俺のおじいちゃんなんだ』と紹介され、骨を持たせてもらう……なんて経験もしました。夜が更けるにつれてどんどん盛り上がっていくのですが、その雰囲気はちょっと神秘的なものがありました。日本でいうところの『盆踊り』に近いかもしれません」(鴨下さん)
 
 裕福な人や権力者のファマディハナともなると規模はさらに大きく。鴨下さんが見かけたものは、大きな車に故人の写真を掲げ、凱旋パレードと見間違えるほどの盛大さだったとか。

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「マダガスカルでは、暮らしの至るところで宗教が基盤になっていると感じました」と鴨下さん。日本よりも宗教が身近にあり、常に「生」や「死」を意識している国だからこそ、盛大に死者を弔うのかもしれませんね。

(取材・文=つちだ四郎)