eスポーツを題材にした青春映画がまさかここまで面白いとは……。2024年3月8日から全国公開されている映画『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(以下、『PLAY!』)では、徳島の高専に通う少年たちが、全国高校生大会に挑む奮闘が描かれる。

 ©2023映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』製作委員会 監督は、青春映画といえばの古厩智之監督。長澤まさみ初主演作『ロボコン』(2003年)ではロボットコンテスト、『のぼる小寺さん』(2020年)ではボルダリングなど、一心不乱に心血を注ぐ青春のひとコマをサッとすくいあげ、ツブ立たせてきた。なんでだろ、古厩監督にかかるとどんな若手俳優も活気づいてきらめくし、単なる自転車の走行でさえマジカルな一瞬として映る。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、大学時代の恩師でもある古厩智之監督に前編・中編・後編のロングインタビューを行った。前編では、奥平&鈴鹿によるW主演で生じるケミストリーを明かしてくれた。

奥平大兼には“ストリートな感覚”がある

 古厩智之監督――青春映画を長年撮り続けてきた古厩監督ですが、新作の『PLAY!』にはヒップホップ映画的な側面があるということで、なるほどと思いました。というのも、奥平大兼さんは一点透視的でクリアな眼差しが特徴的な俳優で、これがまさにストリート的だなと思ったからです。撮影前から奥平さんにストリート的な感覚を感じ取っていたんですか?

古厩智之監督(以下、古厩):奥平さんにはもともと、ストリートな感覚があります。つまり、立っているだけで風景に溶け込んでしまう。余計な説明をしないスタンスの演技は、映画的な振る舞いです。彼の出演作品を何本か見ている中で、ますますいいなと思いました。

――長澤まさみさん主演の『MOTHER マザー』(2020年)などですか?

古厩:『MOTHER マザー』もそうですし、日本に住むクルド人の女の子を描いた『マイスモールランド』(2022年)もすごくよかったです。どの作品でもカッコつけないストリート感が共通しています。

「ほんとうに、よく見て、よく聞く俳優」

『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』――奥平さんのキャスティング理由について、監督が寄せたコメントが面白かったです。「よけいなことはやらない。説明はしない。ただ立っているだけで風が吹いてくるような感じがします」と。

古厩:俳優にはテレビっぽい人とそうではない人がいると思っています。その意味で奥平さんはテレビっぽくはない。テレビではとにかく終始何かしていなければなりませんが、一方映画では大前提として、まずそこにいるということが大切です。

――そこにいるということ、存在しているということに対して、よく“ナチュラルな演技”と表現されますよね。この表現にはいつも違和感を覚えます。ナチュラルとはつまり、何もしていないわけで、何もしていないこととそこに立っている佇まいとして存在していることはまったく違うことですよね。

古厩:彼はほんとうに、よく見て、よく聞く俳優です。普段の生活の中でもそうですが、何かを意識的に喋ろうと思うと、途端に相手を見られなくなったり、聞けなくなったりします。プロの俳優さんでもそういう人が多いなと思いますが、奥平さんはそれができるんです。

――画面の中で演技が持続するんですね。

古厩:そうですね、素晴らしい才能です。



「ヤバいやつとは正反対の、優しく華がある鈴鹿くん」

『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』――一点透視的な奥平さんに対して、鈴鹿央士さんは多方向的だと思います。映画やドラマだけでなく、NHKのコントバラエティ『LIFE!』にも出演するなど、振り幅があります。監督にはどんな姿が映りましたか?

古厩:鈴鹿さん演じる達郎をちょっとヤバいやつにしたいとは思っていました。どこか人を人とも思っていない、見ていない。そんな子が、人を人として見ていく話。かと言って、ほんとうにサイコパスっぽく見えるのもマズい。

 じゃあヤバいやつと正反対の、優しさがにじみ出ていて、なのに凛とした中心があって思わず見つめたくなる魅力がある、そんな鈴鹿くんがやってくれたらどうだろうと考えました。

――カメラを通して見たときはどうでしたか?

古厩:人を人とも見ていないサイコパスをツンとした雰囲気で演じることは難しいことではありません。むしろ、そのツンが解けていく過程を表現することが難しいわけです。どう変化するかなと見ていると、鈴鹿くんはすこしずつ目が開いていくように演じました。目が開く、世界が見えてくる、心が揺れる……というふうに。赤ちゃんが物を初めて見る時のようで、グッときました。

――eスポーツ大会出場チーム募集に応募してきた郡司翔太(奥平)に田中達郎(鈴鹿)が会いに行く場面が素晴らしいです。自転車でピュッと走ってきた達郎が、翔太の写真をバシャバシャ撮ったかと思えば、さっさと帰ってしまう。

古厩:あの場面は、鈴鹿さんに「異常に速すぎるくらいに」とお願いして自転車を漕いでもらいました(笑)。達郎のクセ強キャラが炸裂する瞬間で、本人は楽しんで演じていました。

――画面下手で波が揺れ、画面奥へ走る鈴鹿さんの後ろ姿がいいですね。映画冒頭では翔太も自転車を漕ぐ場面があります。

古厩:自転車は映画的な乗り物ですから、自転車を撮っておけば間違いありません。

自主練で呟いた「心の叫び」がセリフに

古厩智之監督――奥平さんとの掛け合いはどうでしたか?

古厩:キャラクターや演技の方向性は全然違いますが、俳優同士の年齢は近いですし、キャッチボールをしていく中でお互いにいい影響があったと思います。

――若手俳優に対していつもどのように演技の空間を作るんですか?

古厩:僕のようなおじさんが作ってもしょうがないので、おおまかな動きだけ段取りとして決めてあげて、あとはお任せします(笑)。おおまかな指示のほうが、彼らが自由に演じる幅が増えるからです。それを見て、「あ、いいな」と思った瞬間を拾っていきます。あまりキツくきゅっと縛っても監督が得をすることはありません。

――オンライン上で達郎から「ロケットリーグ」の操作を指南された翔太が、心からゲームを楽しんで、「取れるだけで嬉しい」ともらす一言。初心者の彼がコタツに入ってゲーム画面に集中するあの場面は、奥平さんが自由に演じているなと感じましたが。

古厩:あのセリフはですね……。『武士道シックスティーン』(2010年)の剣道にしろ、『のぼる小寺さん』(2020年)のボルダリングにしろ、監督としていつも真っ先に挑戦してみるんです。でもだいたい僕が一番最初に脱落する(笑)。今回はeスポーツですが、ロケットリーグは操作が難しい。家で何度も自主練して、やっとボールを取れたとき、「取れるだけで嬉しい」と呟くと、妻が「そのセリフいいね」と(笑)。

それでメモをしてセリフにしました。なので僕の心の叫び。最初ボールが取れるだけで、ほんとうに嬉しいんですよ。

――さすが、脚本家でもある唯野未歩子(達郎の母役)さんとの共同作業があったわけですね! そんな背景のセリフを奥平さんが発すると、それこそ、あんなにもナチュラルになるんですね。しかもあの場面は、ショットのサイズがやや引き気味で画としても一番好きな場面でした。

古厩:はい、ああいう瞬間はカメラを引きたくなるものですね。



社会としての家庭も描きたい

『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』――達郎から最初に勧誘される小西を演じる小倉史也さんとのトリオはどうでしたか?

古厩:3人目の活かし方は難しいものです。それは日本の映画界では、ある役柄に対する役者の席が一つしかないことが多いからでもあります。一人のところに必ず同じような役がくる。例えば、風采が上がらない感じなら、宇野祥平さんみたいに。

アメリカ映画ならもっと幅広いものですが、でも、今回の小西的な役回りの席はあまりないので、器用な小倉さんならしばらく独占できると思います(笑)。彼は、『20世紀少年』の子役やCM作品などで大活躍しています。

――さらに思うのは、家族の描き方です。山﨑賢人さんを筆頭にした、青春キラキラ映画は2010年代に黄金期を迎えました。ほとんどの作品では、ティーンの関係性に焦点を置くため、日常の背景となる家族は不在として描くことが多いです。でも本作では、翔太の父親である斉藤陽一郎さんの登場など、家族との関係性も含めて青春の群像が描かれるのが興味深いです。

古厩:達郎と翔太の家庭環境は、実話をベースにしています。元ネタのモデル本人たちに話を聞くと、実際にお父さんに対してわだかまりや静かな怒りがあったり、家庭に問題があることに気づき、「社会としての家庭」も描きたいと思いました。

先ほど話題になったヒップホップ映画で描かれる家庭環境は、ほんとうに劣悪なものですよね。主人公たちは、出口がない場所でもがき、ヒップホップやスケボーに心血を注ぐ。それと同じように、達郎と翔太もeスポーツに挑戦するんです。

――伝説のヒップホップグループ「N.W.A」を描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)の舞台であるコンプトンでは、ギャングになるかラッパーになるかでしたね。そうしたせめぎ合いの中にストリートな感覚が根付いていましたが、今の日本で考えた時、ストリートな感覚としてeスポーツに向かう必然性はどんなところに?

古厩:仰る通り、コンプトンには、紛れもないストリートがあります。じゃあ日本にもストリートはあるのか。例えば、川崎のセメント通りはどうかと考えるけれど、少し意味合いが違う気もする。

確かに川崎出身のラッパーはたくさんいます。でもほんとうにギャングがいるようなコミュニティではなく、各々が孤独なタコツボ的なものです。日本にはストリートがないんですよね。それなら逆にリアルではないオンラインならどうか。eスポーツのバーチャル空間でストリート的に繋がるなら、むしろこの先、ストリートな感覚が根付くのかもしれません。

地方の“小宇宙”だからこそ表現できる力強さ

『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』――海町の塩辛いロケーションもストリート感に寄与していると思いました。圧倒的に海が見えるのではなく、ちょろっと見える感じ。主人公たちと徳島の海が共存しているロケーションの魅力があります。

古厩:元ネタのモデルたちが実際に通っていた学校とその近辺で撮ろうと思い、ウロウロしながら好きな場所をロケ地に決めました。僕はどうもスモールタウンが好きなんです。ティム・バートン監督やスピルバーグ監督の作品もだいたいそうです。「ここが俺たちの小宇宙」みたいな(笑)。東京で撮るとなると、これは難しいです。

――東京で撮っているのに、東京に見えない『トウキョウソナタ』(2008年)の匿名性など……。

古厩:そうです、黒沢清監督はいつも川の隅など、街の端っこ、エッジに行くんです。エッジじゃないと東京は写らないんですよね。

――東京ではない、地方の小宇宙だからこそ、そこから拡大されていく力強さがありますよね。そしてその小宇宙に今回は監督自ら、実況者役でだいぶ参加されていますね(笑)。

古厩:『ロボコン』での成功体験があったからだと思います。ロボットコンテストの場面で、自分で実況したら、うまくいったんです(笑)。自分の声をあてているので、編集もやりやすかった。

それならじゃあ今回もやってみるかと。でもちょっと出過ぎましたね。当たり前ですが、出演している間はチェックができないんです(笑)。

――自作にチラッと顔を出すことで有名なヒッチコック監督どころではない出演でしたね(笑)。

古厩:はい、それどころじゃないです(笑)。

<取材・文/加賀谷健>

『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』

3月8日(金) 全国ロードショー

©2023映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』製作委員会              

配給:ハピネットファントム・スタジオ

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu