「イケメンとは?」という問いに、明確な演技で具体的に答えてくれる人がいる。溝端淳平だ。

 ジュノンボーイ。イコール、イケメン。みたいな代表的存在だった溝端も現在34歳。ジュノン出身俳優の演技は、年相応に奥深くなっている。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“イケメンを極めた人”としての溝端淳平を考える。

17歳でジュノンボーイのグランプリに

 映画『ダイブ!!』Blu-ray(KADOKAWA / 角川書店) 2006年開催、第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞し、華々しいデビューを果たしたのが、溝端淳平だ。当時、和歌山県で高校生活を送る17歳だった。

 同コンテスト史上もっとも鮮やかな受賞は遠い過去のようだが、溝端こそ、筆者がこれまでに唯一“出待ち”をし、ファンクラブ入会した人でもある。受賞後、エヴァーグリーン・エンタテイメント所属となった溝端は、『ダイブ!!』(2008年)などの青春映画でメキメキ頭角を現した。

 南沢奈央との共演ドラマ『赤い糸』(フジテレビ、2008年)の映画版(2008年)は溝端最高の名演のひとつ。

 映画やドラマだけでなく、演劇の世界にも果敢に踏み込んだ。50席ほどの小劇場で上演された、つかこうへいの舞台『熱海殺人事件』に出演(2014年)していた頃がほんとうに懐かしい。

 同作出演直前には、演劇界の巨匠・蜷川幸雄の目にとまり、蜷川演出の『ムサシ』や『ヴェローナの二紳士』で準主演を張るまでになった。筆者が出待ちしたのは、『ムサシ』金沢公演の千秋楽(2014年)。終演後、関係者口から出てくる溝端が、車に乗り込むまでの間、片時も目を離さずに追った。

「演劇的な人」とは

 バラエティでも持ち前の爽やかさを発揮していた。まだ蜷川演劇の世界を知る前から放送が始まった、堀尾正明がメインMCの『誰だって波瀾爆笑』(日本テレビ)では、毎週ゲストとのトークで的確な相槌を打つ姿が清々しいこと。

 2015年3月8日放送回では、番組史上初の人間国宝として、歌舞伎界から坂東玉三郎がゲスト出演。さすがの溝端君もちょっと緊張気味かなと思ったら、どっこい、聞き手としての愛嬌によって玉三郎からどんどん秘蔵話を引き出していた。

「ひとつの空間をパッと区切られたときに、その区切られた中にパッと宇宙観を表現できる人たち。それが演劇的な人たちだと思っています」

 ダニエル・シュミット監督が東京を舞台に撮った幽玄的なドキュメンタリー映画『書かれた顔』(1995年)で、インタビューに答える玉三郎がいう「演劇的な人」とは、現在の溝端も含まれているんじゃないか。



戦国武将としての威厳をにじませた『どうする家康』

 NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(2020〜2021年)で、正親町天皇役で不意に出演した玉三郎渾身の凄みにも劣らない熱演を溝端も示すことになったのが、『どうする家康』(2023年)。

 溝端が演じたのが、今川義元(野村萬斎)の嫡男・今川氏真。第1回、今川家の人質である後の徳川家康(松本潤)と氏真が庭先で勝負する。

 実力を隠していた家康が氏真に勝ってしまう。恥をかいた氏真の悔しさ。溝端の眼光鋭さがほとんど動物的な直感で肉薄していた。

 21世紀に生きるひとりの俳優として戦国武将を演じることのリアリティを担保することに苦心しながら、映像の演技としてはちょっと重た過ぎるかなと感じる演劇的演技すれすれで踏ん張る。

 それがまた戦国武将としての威厳をにじませる。それまでの経験を総動員した、熟達の技芸にうなった。

シェイクスピア俳優として



 現在34歳。ジュノンのグランプリから立派な俳優になったなとしみじみ思う。もしジュノンボーイ今昔物語なんて編纂することがあれば、間違いなく歴代受賞者の中で最高の主要人物となるだろう。

 そういえば、ちょうど10年前、蜷川幸雄の連載エッセイ『演出家の独り言』(朝日新聞デジタル)で興味深いものがあった。タイトルは、「イケメン俳優への憂い」。イケメンという存在について、やや辛辣な筆致で書かれたこの文章は、当時、多くのイケメン俳優ファンを敵に回すものでもあった。

 とくに「(イケメン俳優たちが)チェーホフだって、シェークスピアだって、三島由紀夫だって読んだことない」という箇所には、チェーホフやシェークスピアを知らないことがそんなにいけないことかと俳優ファンが猛反発。

 でもどうだろう、行定勲監督の『GO』(2001年)を中学生のときに見て俳優を目指したという溝端が、いつの日か蜷川と出会い、ちゃんとシェークスピア俳優になるんだから。俳優の才能の開花は、無限大であることは確かだ。



“イケメンを極めた人”



 蜷川と出会う前の溝端が、シェークスピアを知っていたかどうかはわからない。でもすくなくとも蜷川演出の舞台上では、シェークスピア俳優としての説得力というか、必然性があった。まさに玉三郎が表現する「演劇的な人」として。

 蜷川がイケメンという存在について考えることを根本的に促したのが、溝端淳平だといえる。その意味では、日本を代表する“イケメンを極めた人”とも理解できる。そして今や、イケメンであるかどうかを超えたところで、自由な演技力を各方面で発揮している。

 岩本照主演の『恋する警護24時』(テレビ朝日、2024年)では、戦国時代とは打って変わり、ラブコメ現代劇。なのに役柄間のギャップをあまり感じさせないのが不思議だ。イケメンだけでなく、俳優道も極めた人の技は、やっぱりすごい。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu