フォーミュラEが10年前に創設されて以来、シリーズのオーガナイザーは都市圏人口3700万人を超える日本の首都でのレース開催を目指してきた。

 その夢がついに現実のものとなり、第1回東京E-Prixは今週土曜日、東京ビッグサイト周辺の公道を使ったサーキットで開催される。今季のフォーミュラEカレンダーの中で最も注目されるイベントと言っても過言ではなく、ドライバー、チーム、そしてファンから大きな期待が寄せられている。

 日本での初開催に先立ち、筆者(Stefan Mackley)はこの冬、イギリス・バンベリーにあるマヒンドラのファクトリーで、東京E-Prixのサーキットをシミュレータで試走するユニークな機会を得られた。

 マヒンドラのシミュレータ・ドライバーであり、元インディカー・レーサーのジョーダン・キングよりも2秒ほど遅いタイムで走った第一印象は、前戦サンパウロのストリート・サーキットとは異なり、オーバーテイクはかなり難しいだろう、というものだった。

 コーナーが次から次へと続きストレートはほとんどなく、ターン2とターン16には大きな高低差がある。そしてストリート・サーキットとしては驚くことではないが、バンプも数多く存在する。

 しかし、サーキットをできるだけ正確に再現するために各チームがしのぎを削る中、実際のサーキットがそれほど過酷なものかどうかはまだわからない。

 今週までこのサーキットは存在しなかったため、チームはレーザースキャンで路面を確認し、実際の状態を確認することになる。

「我々はバンプがあると言っていたが、実際にどの程度バンピーになるのかは、誰も行ったことがないのでわからない」

 そうキングは語った。

「縁石はすべて用意できたが、それが全く同じになるのか、ウォールが同じ位置にあるのかは分からない。たとえ30センチずれていたとしても、コーナーがまったく変わってしまうのだから、少し視野を広く持つ必要がある」

「あらゆる可能性をカバーするようにしなければならない」

 このサーキットで最も難しいのは、間違いなく左コーナーのターン16”だった”。ドライバーはハイスピードからブレーキングし、下り坂を曲がり、凶暴なバンプを越えていくのだ。

「誰かがあそこを通り、大きな間違いを犯すだろう」というのは、マヒンドラのシミュレータ・エンジニアのひとりが言った言葉だ。

 それを危惧したのか、昨年10月に発表されたレイアウトとは異なり、先週発表された新バージョンのレイアウトでは、新たに右/左シケイン(ターン17〜18)が設置された。

 こうした変更は週末を前にしてチームが直面する課題を良く示した例であり、コースレイアウトを正確に表現しようとする試みは絶え間ない戦いであることがよく分かる。

 筆者の意見ではあるが、この変更によってコースの最もスリリングな側面が取り除かれ、悲しいかな、目立った特徴がないレイアウトになってしまった。だがそれが間違っていることが証明されることを願っている。

 ドライバーたち自身はオーバーテイクが難しくなると予想しているが、過去にモナコのようなサーキットでフォーミュラEの素晴らしいレースが生まれてきたことを考えれば、それは必ずしも悪いことではないだろう。

「とてもツイスティだから、サンパウロとは違ったレースになると思う。コーナーが多く、おそらくオーバーテイクが非常に難しいので、予選がより重要になるだろう」とマヒンドラのニック・デ・フリーズはコメントしている。

 オーガナイザーにとって、最終ラップでサム・バードがトップに立ち、マクラーレンに初優勝をもたらした前戦サンパウロE-Prixのような波乱に満ちたレースになるかどうかは、ほとんど未知数だろう。

 東京でのレース開催は、長年の試行錯誤の結果開拓された世界最大級の市場であり、ファクトリーチームを運営し、マクラーレンにパワートレインを供給している日産にとっても特別な一戦となる。もちろん、他チームにとっても魅力的な市場であることは間違いない。

 フォーミュラEのジェフ・ドッズCEOが来日し、小池百合子東京都知事とともにチケット販売開始イベントに出席、すでに第2回東京E-Prix開催に向けて動き出していることからも、このレースの重要性を物語っている。

 その一方でフォーミュラEは、ミサノや上海のダブルヘッダーで常設コースを使用する予定であり、徐々にストリートサーキットから遠ざかっているようにも見える。しかし世界最大の都市でレースを開催し続けることは、チャンピオンシップがそのDNAに忠実であり続けることを意味する。

 たとえその結果が、アクションの乏しいレースになることを意味していてもだ。