2024年シーズンのF1では、パフォーマンスという点で上位5チームと下位5チームの格差が拡大。ここには予算制限レギュレーション内に存在する“不公平さ”が関係していると、かつてF1チームで代表を務めたオットマー・サフナウアーは指摘している。

 F1は、各チームの資金力による格差を是正することで接近した勢力争いの実現を目指し、予算制限レギュレーションを2021年に導入。ここ数年ではビッグチームから小規模チームまで、かつてないほど接近した争いが展開された。

 しかし今シーズンは、10チームがふたつのグループに割れている。レッドブル、フェラーリ、マクラーレン、アストンマーティン、メルセデスで構成される5チームが抜け出し、この10台がトップ10を事実上独占。下位のRB、ハース、ウイリアムズ、アルピーヌ、ザウバーは少ないチャンスをモノにしてポイントを掴むことが求められるという状況だ。

 全チームが同じ予算上限で戦う中でこの格差が生まれた原因は何だろうか? ここ最近までアストンマーティンやアルピーヌでチーム代表を務めたサフナウアーは、予算制限レギュレーションに内在する“不公平さ”を指摘した。

 サフナウアーは特に、予算制限レギュレーション導入によって既存インフラにおける優位性が固定された上、予算制限レギュレーションを最大限に活用するための組織再編に成功したチームがいると考えている。

 自身の新しい旅程管理アプリ“EventR”のPRイベントに出席したサフナウアーは、F1における格差拡大について次のように語った。

「思いつく領域がいくつかある」

「ひとつは私が経験したことだが、予算制限の枠組みの中でより良い仕事をしているチームがあるということだ。彼らは他のチームよりも1000万ドル(約15億7000万円)から1500万ドル(約23億5000万円)多く使うことができる。これがパフォーマンスの差だということを忘れてはならない」

「1500万ドル以上の資金があれば、より多くの人材を獲得したり、他のチームにはできないような実践をしたりすることができる」

「さらにOpEx(営業費用)とCapEx(資本支出)の予算制限があるが、CapEx側ではうっかり不公平が凍結されてしまったと思う」

「大きなチームが持っていて、小さなチームが追いつき獲得しようとしているツールがある。4年くらいで3600万ドル(約56億5000万円)程度かかるから、時間が必要なのだ」

「アルピーヌでも同じようなことに直面した。買いたいモノが買えなくて時間をかけてやるしかなかった。ビッグチームは予算制限が導入されると知ると、資金があったから(その場で)全てを購入したのだ」

 またサフナウアーは、もしチームが最大限のリターンを得るためには、予算制限内で十分な支出余力を残しておくことがマシンパフォーマンスの面でも重要だと語った。

「ひとつ例を挙げて説明しよう」とサフナウアーは言う。

「いくつかのチームは“透明な”フロアを使用している。他には見えないが、彼らは(空気の)流れを見ることができる。そして彼らはそのツールを事前に買っていたのだ」

「ほんの一例だが、(アルピーヌの)空力担当と話していた時に、彼らは『我々は透明なフロアが必要だ。そうすれば、実際に何が起こっているのかを見ることができる。他のチームは持っている!』と言ったのだ」

 そしてサフナウアーは、予算制限の外にあるひとつの側面も格差に関係していると語った。それは才能のあるドライバーだ。

「トト(ウルフ/メルセデス代表)がいつも言っていることだが、最高のドライバーは最高のチームに所属したがるモノだ」とサフナウアーは続ける。

「それも少し関係している。最高のチームなら最高のドライバーを抱えることができるということだ」