既にプラクティスが開始されるなど、5月26日の決勝レースが刻々と迫っている第108回インディ500。インディカー・シリーズに3台体制で参戦するアロー・マクラーレンは、ヘンドリック・モータースポーツとのジョイントによりインディ500で4台目を走らせる。しかしその4台目のドライバーであるカイル・ラーソンの出走にあたっては、やや厄介な問題が存在する。

 NASCARカップで活躍するラーソンにとっては、今回が初のインディカーシリーズ参戦となる。ただラーソンはインディ500、そして同日夜にシャーロットで行なわれるNASCARカップ戦の両方に出走しようとしているのだ。

 過去、インディ500とNASCARの両方に出走する“ザ・ダブル”に挑戦したのは、ジョン・アンドレッティ、カート・ブッシュ、ロビー・ゴードン、トニー・スチュワート。そしてラーソンが5人目のドライバーとなる。

 そのため話題の中心となっているのは、NASCARを優先することになるラーソンに不測の事態が発生した場合、マクラーレンはバックアッププランをどうするのかという点だ。何を隠そう、2021年のカップ・シリーズ王者であるラーソンは現在同シリーズのポイントリーダーにつけている。インディ500のためにカップ戦を欠場するわけにはいかないのだ。

 そしてラーソンの出場が難しくなった場合は、昨年で現役を引退したトニー・カナーンに白羽の矢が立つようだ。

「ああ、そういうことにはなってほしくないけどね」

 そう語るのはラーソンだ。

「ただ、その決断を誰が下すのかは分からない。確かに時間的な制約はあって、時間になったら(インディアナポリスを)出発しないといけない。コカ・コーラ600(NASCARシャーロット戦)が優先だし、再びNASCARカップ・シリーズのチャンピオンになることが優先だ」

「だからそういうことが起こらないことを祈るだけだ。トニー・カナーンがリザーブになっていて、何かがあった時のために控えている。でも、何事もないことを祈っているよ」

 ただカナーンの代打プランに関しても、複雑な条件が絡んでくる。そもそも、決勝レース当日までラーソンがインディ500にエントリーし続ける限り、カナーンが走ることは許されない。インディカー・シリーズの担当者はmotorsport.comに対し、ラーソンが「X周」を走った後にサーキットを出なければならなくなった時、リリーフピッチャーのようにカナーンが乗り継ぐという選択肢はないと話している。

 直近の似たようなシナリオでは、2021年のテキサスの例が分かりやすい。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのジャック・ハーベイがプラクティスでクラッシュして負傷。レース出走を取りやめたハーベイに代わって、数ヵ月レースから離れていたサンティノ・フェルッチの代役出走が承認された。フェルッチは特別に短いセッションでの走行を許可され、最後尾からスタートすると、9位でフィニッシュしてみせた。

 またさらに過去を遡ると、ドライバーの“リリーフ登板”が許されていた時代もあった。例えば2004年のインディ500では決勝レースが雨で遅れたことにより、ラーソンのようにNASCARカップ戦とダブルエントリーしていたゴードンが途中でシャーロットに向かわなければならなくなった。その結果ゴードンは27周でマシンを降り、予選前に1日だけAJフォイトのマシンを走らせたジャック・ラジアーにバトンタッチした。

 ラーソンにとっても、この“ザ・ダブル”が無事成功するかは神のみぞ知るといった状況。しかし今は、インディカーに挑戦することによって起こることを全て受け入れる構えだ。

「新しいことを学んだり、新しい挑戦をすることに興奮する。インディカーも新しいチャレンジだ」

 ラーソンはそう語る。

「そのレースのスタイルを少しずつ学んで、何がどのように反映されるかを見ていく。テレビでずっと見てきたドライバーたちとレースをするとか、何より興奮するよね」

「でも基本的には、ただ学んで、自分がどれだけ早く学べるか、そして競争力を持てるかどうかを見るだけだ。そのすべてをうまくこなすことができれば、結果を残す上で重要視されるものが全て良い方向にいくだろう」