F1オーストリアGPと言えば、昨年は期間中に1000件を超える大量のトラックリミット違反が検知されたことで大いに話題となった。あれから1年……今年のレースに向けては対策が施され、コース最終区間のアウト側にグラベルトラップが設置された。その効果が、存分に発揮されているようだ。

 レッドブルリンクは最後のふたつのコーナー(ターン9、ターン10)がどちらも高速の右カーブになっている。昨年までは当該区間のアウト側が完全なターマックだったことから、ドライバーとしては少しでもスピードを乗せてコーナーに飛び込むべく、コースアウト上等の走りをすることが可能だった。その結果として多くのドライバーがトラックリミットを定義する白線を超えてしまい、上記のような大量の違反に繋がったのだ。

 これによって、昨年はレース後に大量のペナルティを処理する必要があった。そうなるとレース終了後に順位の変動が多数起きてしまうため、大いに問題視されていた。

 そして今回はターン9、ターン10アウト側の白線、縁石の配置が見直され、縁石のすぐ外側にはグラベルトラップが設けられた。その結果、昨年はトラックリミット違反によるタイム抹消がスプリントシュートアウトで13回、公式予選で47回記録された一方で、今年のスプリントシュートアウトでは6回に減少した。

 しかもその内1回には、角田裕毅(RB)のスピンもカウントされている。また、明らかにセッションの結果に影響を与えるようなタイム抹消に限ると、ルイス・ハミルトン(メルセデス)とローガン・サージェント(ウイリアムズ)の2回だけ。スプリントのポールを決めるSQ3においては1回もタイム抹消が記録されなかった。

 セッション後のインタビューでも、ドライバーからはこの話題が全くと言っていいほど挙がらなかった。一方、ピレリのモータースポーツ部門の責任者であるマリオ・イゾラからは、予選後のメディアブリーフィングで興味深い仮説が提起された。それはグラベルトラップの存在が、ドライバーの予選におけるアプローチに影響を与えている可能性があるという事だ。

 例えば、マックス・フェルスタッペンがスプリントシュートアウトで記録したポールタイムは1分04秒686。これは昨年彼が同セッションで記録したポールタイムよりコンマ2秒ほど遅い。ラップタイムが遅くなったことには当然他の要因も考えられるが、イゾラはトラックリミットの影響を提唱した。

「ラップタイムは昨年よりわずかに遅かった。コンマ2秒の話だが、これは新しいグラベルトラップのせいかもしれない」

「ドライバーはトラックリミットを遵守する義務があり、(今では)そうしないとタイムをロスする。それが昨年よりも若干遅くなった理由だという可能性がある」

 なお、グラベルトラップの内側にある縁石は、F1マシンの幅である2メートルよりもかなり狭くなっている。これはつまり、4輪が白線より外に出てしまったドライバーは確実にグラベルにも乗ってしまうことを意味する。コックピットから白線を視認することが難しいこともあり、以前はドライバーが感覚的にトラックリミットを感じることは難しかったが、今はその問題も解消されていそうだ。

 これについて、フェラーリのシャルル・ルクレールはこう語る。

「今は白線がどこにあるかが分かりやすくなったように思う。そういった問題はもう起こらないだろうし、良いことだね」

 またウイリアムズのアレクサンダー・アルボンも、今回の変更に賛同する。

「これは全てのドライバーが強く求めてきたことだ。これこそが僕たちにとって自然な抑止力だからね」

「彼らは正しいやり方で取り組んでいると思う。彼らの対応には満足している」

 今回の対策に関する最終的な評価は、71周の決勝レースを終えてみないとなんとも言えない部分もあるだろう。ただ現状としては問題が解決されているように思われるため、FIAは既に他のサーキットでもこの対策を実行することを検討しているという。

 FIAレースディレクターのニールス・ウィティヒは、次のように語っていた。

「これは完璧なセットアップだと思う」

「ドライバーがタイムを稼ぐか、稼がないかについての議論はこれで終わりだ。近い将来、これが2輪にとっても4輪にとっても良いものになることを期待している。サーキットとしても、維持しやすいセットアップになっていると思う」