上皇さまのおかげで希望が持てた

 最終的に選んだのは全摘出。前立腺と精嚢(せいのう)という、精子を機能させる部分を手術により摘除する。後遺症を含め、男性には大きな決断だが──。

「最初はもちろん迷いました。そんなとき、上皇さまが天皇陛下でいらしたころにやはり全摘出されていたのを知って。術後すぐ被災地に行かれ、膝をついてみなさんを勇気づけられていた。

 なんてすごいのだろうと胸を打たれました、自分は何を迷っているんだと、こんな小さなことで悩んでいる場合じゃないと、自分で自分に言い聞かせました」

 医師のすすめもあり、手術は手術支援ロボット「ダヴィンチ」による摘出を行っている。米軍が戦場にいる負傷兵の手術をするために開発された技術で、遠隔操作による精密な施術が可能になるという。

「日本ではまだ珍しかったのかもしれません。先生はがぜん乗り気で、『亞門さん、やりましょう、やりましょう!』と笑顔で言われて(笑)。実際どんなものかと思ったら、ガランとした部屋に1人で寝かされ、先生はコックピットの向こう側でゴーグルをつけて操作されている。まるで宇宙船のような雰囲気です。

 マネージャーをはじめ、みんながコックピット側から手術の画面を共有して見ていたそうです。先生が操作しながら、『ここはこうなっていますから』と逐一説明をして。すごい時代だなと思いましたね」

 手術は無事成功し、体調も順調に回復。退院2日後から早くも海外を飛び回っている。

 ただし、やはり後遺症はあったそう。

「尿漏れがすごくて、蛇口が壊れたような状態でした。演出中も尿漏れパッドが欠かせません。一度など稽古の最中に血尿が出て、便器が真っ赤に染まったことがありました。

 びっくりしてすぐ病院に電話をしたら、先生に「かさぶたが取れただけ。大丈夫、大丈夫、明日には治るよ」と言われましたけど(笑)。

 その後も軽い脱腸になったりと、身体が整っていくまでやはり半年間くらい、いろいろありました。でも痛みもなければ、傷痕も一切なく、こんなに早く治るものかと驚いています」