能登半島地震の発生から半年、被災した家屋の解体撤去費を住民に代わって自治体が負担する「公費解体」が富山県内でも本格化している。対象となる建物は5市計1200件以上に上るが、住民同士の合意形成に時間がかかることなどを理由に、申請率は4割(6月25日時点)にとどまっている。各自治体は2025年度までの作業完了を目指すが、申請のペースが上がらなければ目標達成は難しく、地域の復旧復興にも影響が出る恐れがある。

 6月25日に公費解体が始まった氷見市北大町。地元の40代男性は木造2階建ての自宅が全壊した。長屋造りで、両隣の家と一部がつながっているため「わが家だけ先に解体することはできなかった」と言う。既に協議を進めており、話がまとまれば一緒に公費解体を申請する予定だ。

 県内で公費解体が本格的に始まるまで半年を要した。被災自治体が避難所の開設やインフラ復旧など緊急性のある案件を優先したためだが、一方で、北大町の男性のように、所有者ら利害関係者の合意形成に時間がかかっていることも背景にある。また公費解体の順番が回ってくる時期や、費用が償還される自費解体をした場合の負担をてんびんにかけ、様子見の人も少なくない。

 県内の申請率は4割にとどまるものの、いずれは解体する必要がある。他の復旧復興事業を抱えながら、通常業務にも対応する自治体の負担は大きい。氷見市環境政策課の担当者は「家屋の立地や解体業者の選定期間によって、作業の進捗(しんちょく)は異なる。解体の段取りなど申請者一人一人の希望を全て受け止めきれない可能性もある」と限界を指摘する。

 対象家屋が多い氷見市は2025年度、富山、高岡、小矢部、射水の4市は24年度までの解体完了を目指す。これらの自治体では道路などインフラの本格復旧も控えており、人手不足に悩む建設・解体業者にとって、地震関連以外の仕事との両立が課題となっている。作業は天候に影響されやすく、スケジュール通りに進むかどうかも見通せていない。

 氷見市上田子の三興土木は北大町の公費解体を請け負う。現場では、倒壊家屋の廃材を手作業で運び出し、重機の通り道を造っている。作業員の一人は「解体完了には1カ月ほどかかるだろう」と言う。

 同社は約30人の社員を抱えるが、慢性的な人手不足に加え、4月に始まった建設業の残業規制で、やりくりはさらに厳しくなった。久保俊介代表取締役は「時間的余裕はないが、氷見の皆さんに一刻も早く復興の兆しを見つけてもらえるよう努力していく」と話す。

県、熊本地震参考に連絡調整

 県は各自治体に対し、国から公費解体の補助を受ける手続きのアドバイスや、県構造物解体協会、県産業資源循環協会といった業界団体と自治体間の連絡調整を行っている。

 今回の公費解体を進める上で、2016年の熊本地震の例を参考にした。熊本県では4万棟以上が全壊または半壊となり、8割で公費解体が行われた。

 建物の所有者が既に亡くなっている場合、相続人全員の同意を得るのはハードルが高く、熊本地震の被災地でも公費解体を円滑に進める上でネックとなった。被害の大きかった同県益城町の職員として復興に携わった末松幸治生涯学習課係長は「外部団体が積極的に相談支援に関わることで、解体が迅速化するのではないか」と指摘する。