桔梗隼光(ききょうはやみつ)鍛刀場(兵庫県相生市矢野町瓜生)が小刀づくりの体験プログラムを提供し、訪日外国人旅行者から人気を集めている。この1年に150人を超す外国人が参加した体験の現場を訪ね、その魅力に迫った。(豊田 修)


■たたく、研ぐ 年間150人参加、人気急上昇


 鍛冶屋川のせせらぎが周囲の山々に響く自然公園「羅漢の里」。水車が回る木造小屋にカチン、カチンとつち音が響く。鍛刀場を運営する刀匠の桔梗隼光(本名・光史)さん(50)に教わりながら、外国人4人が小刀を作っていた。

 4人は米コロラド州デンバーから訪れたジョセフ・キアレッリさん(37)と妻サマンサさん(35)、友人夫婦。日本に2週間滞在し、広島や京都などを観光してきた。グーグルの検索を使って小刀づくり体験を知り、メールでじかに申し込んだという。

 「まず私がやるので、続いて皆さんもやってください」。鍛冶用の炉「火床(ほど)」に鞴(ふいご)で風を送って松炭を燃やし、桔梗さんが見本を見せる。あらかじめ小刀の形に加工した鋼を炉に入れて熱し、真っ赤になると手づちでたたいて整形していく。外国人たちも見よう見まねでたたいた。

 やすりで小刀の形を整えた後は「焼き入れ」。800度に熱して水で冷ます作業について「刃物に命を吹き込むんです」と桔梗さん。砥石(といし)を使って研ぎ、光沢のある小刀に仕上げる。最後に名前を刻めば、世界で一つだけのナイフの完成だ。

 外国人と会話する上で桔梗さんにとって欠かせない「武器」が、手のひらサイズの通訳機だ。桔梗さんが話す日本語を、瞬時に英語へ変換してくれる。外国人はスマートフォンの翻訳アプリに英語を打ち込み、表示された日本語を桔梗さんが読んだ。言葉の壁は意外と簡単に乗り越えられる。

 革製のケースやストラップも贈られ、4人はご満悦の様子。サマンサさんは出来上がった小刀を手に「最高の思い出ができた。今回の旅行で一番エキサイティングだった」と満面の笑みを見せた。


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 相生出身の桔梗さんは龍野高校を卒業後、和歌山大教育学部で美術を学んだ。もともと刀が好きな訳ではなかったが、テレビで見た刀作りに興味を持ち、長船刀剣博物館(岡山県瀬戸内市)で鍛錬を見学。そこで出会った刀匠に弟子入りした。2005年に独立し、京都に工房を開いた。

 10年、地元・相生市の羅漢の里に鍛刀場を開設。観光客向けに小刀づくり体験を始めた。休業状態だったというコロナ禍を経て、昨年4月から訪日客の予約が入り始め、急に忙しくなった。この1年間に訪れた外国人は150人を超し、今年に入ってからは日本人の数を上回っているという。

 桔梗さんは「国内外から体験に来てもらえることはうれしい。特に外国人は日本に滞在する期間が限られる中でうちを選んでもらえるのがありがたい」と語る。

 桔梗さんは新たな試みとして日本刀作りの工程「鍛錬」の無料公開も計画している。5月12日、8月11日、10月4日、11月16日で、いずれも午前9時〜午後1時。桔梗隼光鍛刀場TEL090・8358・4748


■「映画やアニメの影響大きい」


 日本刀に外国人が関心を寄せる背景について、英国出身で備前長船刀剣博物館(岡山県瀬戸内市)スタッフのトゥミ・グレンデル・マーカンさん(28)は「映画やアニメの影響で欧米には憧れを抱く人がいる」と指摘する。

 マーカンさん自身は考古学を学ぶ中で刀への興味を持ち、刀について英語やフランス語で説明する「多言語支援員」を務める。

 マーカンさんによると「欧米人の間で日本刀は神秘的な力を持つイメージが強い」といい、「黒沢明やラストサムライ、キル・ビルなどの映画、鬼滅の刃などのアニメ、刀剣乱舞などのゲームの影響が大きい」と解説する。同館にもフランス人をはじめ、日本刀について知りたい外国人が多く訪れるという。