昨年、38年ぶりとなる日本一に輝いたプロ野球阪神タイガース。その試合をプレーボールからゲームセットまで完全生中継する「サンテレビボックス席」が、6日の放送で55周年を迎える。毎回携わるスタッフは約50人。甲子園球場(西宮市)に配置した8台のカメラが選手の一挙手一投足をとらえ、感動の一瞬をお茶の間に届けてきた。(津谷治英)

 主砲の大山悠輔選手が相手投手をにらむ。一塁ベース上で近本光司選手が次の塁をうかがう−。

 球場前の中継車の暗い室内には約30の画面が並び、虎ナインの真剣な表情を息遣いまで伝える。

 ■チーム一丸で

 視聴者が最も長く観賞する投手と打者の対決は通称「1カメ」が担当。センターのバックスクリーン横にある。かつてこの構図は、キャッチャーのサインが見えるために禁じられていたという。一塁側ベンチ近くの「6カメ」は、ランナーがホームに生還する一瞬を狙う。間一髪のプレーは野球観戦の醍醐味だ。

 ディレクターはその中からベストな場面を選ぶいわば司令塔。ダブルプレー、盗塁など次に想定される場面をイメージしながら神経を研ぎ澄ます。カメラ、技術、放送席スタッフとの密な情報交換が欠かせない。

 昨年、スポーツ部初の女性ディレクターとなった松井愛さん(28)は「試合中はすごいプレッシャー。制作チームが一体にならないと感動は伝えられない」と目を光らせる。

 サンテレビ(神戸市中央区)が開局したのは1969年5月1日。その直後から続く看板番組は現在、兵庫県、大阪府全域を中心に隣接府県で視聴できる。平均の試合時間を想定し、通常は午後6時〜9時22分の放送枠を確保。しかし延長や雨での中断を挟むと、時間内での終了は不可能になり、後番組をずらして組み替える必要がある。

 営業事業局次長の西村俊明さん(55)は「5分から15分刻みで番組編成の変更表を作成している。何があっても試合終了まで放送できる」と胸を張る。

 ■歴史に残る放送

 1992年9月11日のヤクルト戦は伝説になった。延長15回の激闘となり、試合時間は史上最長の6時間26分。終了は午前0時を過ぎたが、サンテレビは伝統の「試合終了まで放送」を貫いた。

 実況を担当したOBの谷口英明さん(69)は「同じ時間に放送していたテレビ朝日のニュースステーションが『甲子園はまだやってます』と、うちの映像を流した」と懐かしむ。

 中学生の時、サンテレビで田淵幸一選手の本塁打を見て阪神ファンになった。ボックス席の実況を希望して入社。88年から約30年、放送席に座った。2005年、岡田彰布監督が初優勝を決めた巨人戦では「大願成就」とマイクに叫んだ。

 「栄冠の瞬間を伝えられて達成感いっぱいでした。ボックス席はサンテレビの誇り。ファンの期待に応え続けてほしい」と後輩たちにエールを送る。



 サンテレビボックス席は6日の広島戦(甲子園)で55周年記念中継を予定。ともに阪神OBで、昨年のセ・リーグ優勝時もコンビを組んだ掛布雅之さんと真弓明信さんが解説を務める。同日午後4時からは中継の舞台裏に迫るドキュメンタリー「#俺たちのミカタ」を放送する。