ひと通り仕事を覚えた27歳前後のビジネスパーソンは、責任ある仕事を任されるようになり、会社で自分の居場所を見つけるころ。一方で、今後のキャリアを見つめ直す大事な時期でもあります。しかし、現状の居心地が良く、今後を考えることから知らず知らずのうちに目を背けてしまっている方も多いのではないでしょうか。

「その状態は“チャレンジできない病”かもしれません」と指摘するのは、転職サイト「リクナビNEXT」の元編集長で、30年以上にわたり中途採用に携わってきた転職のプロ・黒田真行さん。知らず知らずのうちに陥る「チャレンジできない病」について、キャリアにもたらすリスクや、セルフチェックするポイントなどを伺いました。

知らず知らずのうちに、挑戦を怖がる体質になっているかも

Q. 「チャレンジできない病」とは何ですか? それは、キャリアにどのようなリスクがありますか?

キャリアへの不安を感じているのに転職にチャレンジしない状態を、私は「チャレンジできない病」と呼んでいます。

とくに大企業に勤める方は、長く働けば働くほどその会社の中でのスキルや評価が上がり、仕事がやりやすくなっていきます。同時に、知らず知らずのうちに会社独自の文化や価値観に染まり、居心地が良くなっている状態とも言えます。このような「コンフォートゾーン」にいると、わざわざアウェイに出ることを怖いと感じたり、意味を感じられなくなったりするため、チャレンジする機会が減っていきます。これは人間誰しもがあることかと思います。

現在の会社にフィットしていると感じ、違和感を覚えていない方はそのまま突き進めば良いでしょう。しかし、違和感があるのに、「なんとなく怖い」「未経験のことにチャレンジして失敗するのが嫌だ」「今の会社でせっかく評価されているのに、わざわざ外に出て恥ずかしい思いをしたくない」などの理由で、違和感があるのにアクションできないなら、それは「チャレンジできない病」。 現状の居心地の良さに負けてそのまま過ごしてまうと、「ありたい自分」と実態の自分がどんどん乖離していくリスクがあります

「働く=雇われること」になっていないか

Q. 自分が「チャレンジできない病」になっていないかをセルフチェックする方法はありますか?

セルフチェックするポイントは二つあります。一つ目は、 「働くこと=会社に雇われること」になっていないか ということです。

自分のキャリアを考えるとき、起業やフリーランス、業務委託も含めて、自分はどんな働き方でどんな仕事をしていくことが幸せなのか、広い選択肢から絞り込んだほうがキャリアが広がります。ただ、私の相談者にも「会社に雇われなければならない」という固定観念に縛られている方が多くいらっしゃいます。「まさか、フリーランスや起業なんて考えられない」と言うのです。お金を稼ぐ方法はいくらでもあります。会社で働くことはOne of themでしかありません。

Q. 「働くこと=会社に雇われること」という考えから抜け出すために、どのような意識を持てばいいでしょうか?起業やフリーランスは、ハードルが高いという方も多いかと思います。

「自分のスキルをバラ売りする」という発想で考えてみてはどうでしょうか。正社員として雇われることは、自分を何百万円かの年収で、まるごと買ってもらうようなもの。対して、例えばあなたのスキルを、コンサルタントとして月10万円で買ってくれる会社があれば、その会社と年間120万円で契約できます。同様の契約を10社見つければ、あなたの月収は100万円、年収1200万円ですよね。会社にとっても、正社員にするよりリスクもコストも抑えて、あなたのスキルを必要なときだけ使えるメリットがあります。

あなたには、どんなスキルがありますか?営業マネージャーの経験があれば「営業戦略を作るお手伝いをします」と提案できるし、営業代理店として契約できるかもしれない。経理の責任者をしていたなら「月次決算のお手伝いをします」と言って、中小企業と契約できるかもしれません。

いまの会社があり続けると思い込んでいないか

Q. もう一つのチェックポイントは何ですか?

「いま働いている業界や会社、自分の仕事が将来もあり続けると思い込んでいないか?」 と、ぜひ自分に問いかけてください。世の中では、高いスピードで栄枯盛衰が繰り返されています。10年後、自分がいる会社はどうなっているのかを想像してみてください。リアリティを持ってイメージして、キャリアチェンジの備えができていれば、適切な時期に自分の意思でキャリアをコントロールすることも可能になります。

Q. そのためには、業界トレンドをキャッチしたり、自分の仕事の将来需要を考える必要があると思います。コツやポイントを教えてください。

学生に「あなたの業界の展望を教えてください」と聞かれたら、あなたはどう答えますか。そのシーンを想像して、未来を予想してみてください。

自分の仕事の将来需要も同様です。あなたの働く業界はどんなビジネスプロセスになっているか。研究開発、営業、アフターサービス、製造など、さまざまな職種がある中で、自分はどの役割を担っていて、どれくらい重みがある仕事なのかを考えるのです。

このとき、「自分がどうなるか」という視点ではなく、業界と仕事にフォーカスして予想することが大切です。たとえば銀行の法人営業職であれば、「今は自転車に乗って中小企業を回っているけれど、業界のデジタル化が進んでいくと、将来的にこの仕事はなくなるかもしれない」と考える人もいるかもしれません。もし、なくなると予想したなら、「今まで培ったスキルを使って、今後どんな業界で働いていけるか」と考えることが必要です。「やばいかもしれない」と予想しながら、「まだ大丈夫だろう」と行動しないのは、正常化バイアスが働いてリスクから目を背けているだけ。タイタニックの船上でのんきにコーヒーを飲んでいるようなものです。

インターネットやAIの登場など、私たちは数十年に渡る大きな地殻変動の中にいます。現在は、斜陽産業とこれから勃興していく産業が交錯している途上。あなたが5年前、10年前に就職した会社が、今どのポジションにあって、この地殻変動の中で沈みかかっているか、あるいは浮上しようとしているのかを考えてみましょう。

将来を見据えて転職を考えるなら、27歳前後の今です。自分が「チャレンジできない病」になっていないか、ぜひ自問自答してみてください。

プロフィール

黒田 真行

ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役

1988年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、 リクルートエージェント HRプラットフォーム事業部部長、株式会社リクルートメディカルキャリア取締役を歴任した後、2014年にルーセントドアーズを設立。35歳以上向け転職支援サービス「Career Release40」を運営している。 2019年、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を開始。

代表著書
『35歳からの後悔しない転職ノート』『転職に向いている人 転職してはいけない人』