ミラノ風ドリアに負けない存在感「間違い探し」

 安定したおいしさと良心的な価格設定で知られるイタリアンレストランのチェーン「サイゼリヤ」。ミラノ風ドリアをはじめとする定番メニューはもちろんのこと、それらと双璧をなす“サイゼのキラーコンテンツ”といえば、ご存じ「間違い探し」です。

 シンプルな線とカラフルな色彩で描かれた間違い探しは、もともと「キッズメニュー」の表紙を飾っていたこともあり子ども向けの簡単な内容かと思いきや、ほとんどの人が解けないほど高難度の間違いが2〜3個はあるのがお決まり。

 毎回10個の間違いが描かれているのですが、X(旧ツイッター)では

「サイゼの間違い探し、今回も難し過ぎんか」
「最後の1個がどうしても見つからない」
「大人二人がかりでも全問分からないサイゼの間違い探しって……」

といった投稿がずらり。さらには、物事が非常に似通っていて区別を付けづらいことの例えとして「サイゼの間違い探し並みに難しい」「サイゼの間違い探し最後の1個」という“慣用表現”が定着しているほどです。

 来店者を楽しませ、しばしば悩ませる間違い探しはどうやって制作されているのか? イラストを描いているイラストレーター山崎秀昭さんに話を聞きました。

あまりにも高難度 間違い箇所を決めるのは誰?

 山崎さんがサイゼリヤの間違い探しを担当するようになったのは2018年4月版から。おなじみの色使いとあの特徴的なタッチのキャラたちが、サイゼリヤのメニューとともに描かれています。

 山崎さんは間違い探し制作を専門にしているイラストレーターかと思いきや、実はサイゼリヤでの仕事が初めてだったのだそう。

「サイゼリヤの間違い探しは年に4回新作が出ます。毎回、サイゼさん側から絵のテーマとだいたいの構図を指定した依頼が来るので、そこからまず白黒のラフを描き、色付けの清書を描き、間違いの箇所をチョイスしていく……という流れで作業をしています」(山崎さん)

 一つの作品を仕上げるのには何往復もやり取りを重ねるので、足かけ3週間は掛かるのだとか。肝心の“間違い”は、どのようにして決めているのでしょうか?

「実はサイゼさん側が決めているんです。最初に間違いを18カ所指定されるので、それを盛り込んだラフを描きます。清書の段階で、間違いの配置や難易度などのバランスを見ながらサイゼさん側が10カ所に絞る、というのが大まかな仕事の流れですね」

 間違いが難し過ぎるとSNSなどで話題になっている件については、山崎さんの耳にも届いているようで、

「ときどき僕の所にクレームが入ることもあるんですが……、決めているのは僕じゃなくてサイゼさんなんですよー! と思っています(笑)」。

山崎さんが描くイラスト。シンプルな線やカラフルな色彩が目を引く

間違い探しを作るとき絶対に気を付けるべきこと

 サイゼリヤ側の主導で作られている間違いですが、5年以上の経験をへて今では山崎さんも間違い作りはお手の物。

「例えば、ラフ段階でも『この人物の腕の角度は間違いの箇所に指定されるな』というのが感覚で分かるようになってきたので、始めからレイヤーを分けて描くようにしたりしていますね」

 逆に「この部分はいかにも間違いがありそうだから(間違い探しを解く人たちが)一生懸命探すだろうだな」といった箇所には、サイゼリヤ側もあえて間違いを作らずフェイントを掛けるのでは、と予想。こうした読みはだいたい当たるそうで、

「その辺りはもう、あうんの呼吸ですね」と笑います。

 今やサイゼリヤだけでなく「六甲バター」(神戸市)の「Q・B・Bベビーチーズ」ブランドなどでもイラストや間違い探しを担当している山崎さん。間違い探しを制作する上で、特に気を付けていることがあると言います。

 それは、「一つの間違いを複数の間違いだと捉えられないようにすること」。

「例えば家の絵があったとして、間違いの家を縦長に描いたとしますね。そのとき家の側面にある窓まで併せて縦長にしてしまったら、家の形と窓の形、二つの間違いがあると数えることもできてしまう。皆さん、間違い探しを真剣に楽しんでくれているのですから、そのような混乱を抱かせることは絶対しないようにしています」

 そのため、たとえどんなに分かりづらい場所に仕込まれていても、間違いは必ず「間違いだ」と断定できるものしか描いていないそう。それでこそ人々が安心して間違い探しに興じられるというものです。

 サイゼリヤの間違い探しは、これからも継続的に新作が登場する予定とのこと。かわいいイラストのどこかに隠された間違いを探しに、お店へ足を運びたくなる人も多いのではないでしょうか。

(LASISA編集部)