世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(橋本之克 著、総合法令出版)の著者のことばを借りるなら、「行動経済学」とは「心理学」と「経済学」を融合した比較的新しい分野の学問。

近年なにかと目にする機会が増えましたが、注目されるようになったことには明確な理由があるようです。この学問は、過去に主流だった経済学における「人間」に対する見方を変えたというのです。

かつての経済学における“標準的な人間像”は、目の前にある自分の経済的利益を最大化するよう合理的に意志決定する「ホモ・エコノミカス」でした。つまり、人は常に冷静に、機械のように行動するものと仮定されていたわけです。

ところが実際の人間は、間違いも起こせば、他人のために自分を犠牲にすることもあるものです。そのため過去の経済学をもとにすると、答えられない矛盾や謎がたくさん出てくることになるのです。ちなみにこれは、「アノマリー(例外事象)」と呼ばれているようです。

行動経済学では、このアノマリーを調べるなかで、人間の不合理な行動や判断が決まった法則に従って起きることを発見したわけです。

たとえば以下は、その一部。

・つまらないものでも、一度手に入れたら愛着を感じる

・罰金を払えば悪いことをしても良いと思ってしまう

・ギャンブルで手に入れたお金は簡単に浪費する

・ブラックな企業を辞めることができない

(「はじめに」より)

さらに行動経済学は、人間が無意識に「自分自身は合理的だ」と信じていることも明らかにしたのだとか。人間は自分の不合理さに気づかず、認めることができないために、同じ過ちを繰り返し続けてしまうということです。

そして重要なポイントは、行動経済学が「ビジネスから生活まであらゆる面で活用できる実用的な学問」であるという著者の指摘。そこで本書では、行動経済学が示す「よりよい行動を行うための方法」を紹介しているわけです。

きょうは第1章「背中を押される行動経済学」のなかから、仕事に関連するトピックスを抜き出してみたいと思います。

厳しい締め切りは生産性を向上させる

いうまでもなく、ビジネスパーソンにとって「いかに集中力を高めるか」はきわめて重要な問題。しかし行動経済学には、集中力アップの効果が期待できる「締め切り効果」という法則があるのだといいます。

人は明確な締め切り日時を与えられると、間に合うようにがんばるもの。意識せずとも作業に集中し、「時間に余裕のない状態」が集中力を向上させるわけです。たしかに、締め切りが1カ月先の仕事より、1時間後が締め切りのほうが集中力を発揮できるのではないでしょうか。

つまり、それが締め切り効果。同様の効果を「集中ボーナス」とも呼ぶそうですが、ここではその例として、デューク大学のダン・アリエリーらが行った、この法則を証明する実験が紹介されています。

対象者の大学生に、3週間で10ページのレポートを3本校正する仕事を与え、修正できた本数ごとに報酬を渡したという試み。その際、対象者を以下の3グループに分けて結果を比較したのだそうです。

(1)3週間後に3本まとめて提出する「ぎりぎりグループ」

(2)1週間に1本提出する「毎週締め切りグループ」

(3)自分で締め切りを設定する「お任せグループ」(48ページより)

実験の結果、「毎週締め切りグループ」がいちばん時間をかけて(84分)、ほとんどのミスを見つけたのだといいます。「ぎりぎりグループ」はいちばん短く(51分)、見つけたミスは最も少なかったそう。そして「お任せグループ」は、その中間ということになったというのです。

この結果からわかるのは、お任せやゆるい締め切りの設定ではなく、厳しい締め切りを課すことで生産性が高まるということです。そこでは集中力が発揮されているのでしょう。

さらに、課題を細かく分割して短期間の締め切りを複数定めるなど、方法をアレンジすることで、より効果を高めることも可能です。(48ページより)

つまり、「締め切り」が集中力を高めることは事実であるようです。しかしその一方、心理学でいう「トンネリング」に注意すべきだとも著者はいいます。これは、なにかに集中したときに、まるでトンネルのなかにいるかのように対象以外のことが見えなくなる状態。

そのため、締め切り設定で集中した際には、同時に視野が狭くなる可能性があると自身で認識しておく必要があるのです。(47ページより)

つらくなりにくい目標の立て方

目標を立てたものの、やってみたらつらくなってしまった――。そんな経験を持つ方は少なくないはず。

では、結局のところどうしたらいいのでしょうか?

そのための解決策を、著者は「投資」を引き合いに出して解説しています。投資の心理においてマイナスを感じるのは、自分の資金が下がったとき。したがって、そうした体験をする機会を少なくすることが解決策になるかもしれないというのです。

具体的な方法としては、投資信託などを長期運用する「ほったらかし投資」があります。あえて資産状況を小まめに見るのではなく、ある程度上下が落ち着いたところで、まとめて確認するのです。その時点でマイナスならば残念ではあるでしょう。しかし、そこに至る経過で資産が増減することによる心理的ダメージは軽くなります。

よく初心者向けに長期分散投資を勧めるケースがありますが、その背景にあるのも、一喜一憂を避けて長期で結果を見るよう推奨する考え方です。(54ページより)

つまり、このような目標の設定と管理の考え方は、日常においても活用できるということ。しかもそれは、企業における働き方、学校や自宅での学習の方法などはもちろんのこと、さまざまな場面で活用できるといいます。(54ページより)


行動経済学を知れば、自分自身の不合理さに気づくことができると著者は述べています。それは、自分のそんな部分を理解したうえで改善することで、自分の行動や暮らしはよりよいものになるということ。人生の質を上げるためにも、参考にしてみてはいかがでしょうか?

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Source: 総合法令出版