ここ3年のうちに、一気にオンラインコミュニケーションが普及しました。

筆者もその例外ではなく、取材案件のほとんどがZoomを活用した、オンライン上のものへと切り替わりました。

非対面のやり取りが主流になるにつれ、実感するのは敬語に対する意識の変化です。

一言で言えば、折り目正しいフォーマルな敬語は、使わない方向へと進んでいる印象があります。これは、自分が属する業界だけでなく、ほかの多くの業界でも同様のようです。

たとえるなら、Zoomでスーツ&ネクタイ姿がなぜか違和感を覚えるのと似たような感じでしょうか。

歴史的なスパンで言えば、終戦後から敬語は徐々にゆるくなってきたようですが、それが急加速しているのです。そして、この風潮に目くじらを立て、敬語の復権を目指すのもなんだか違うなあ、という雰囲気が世の中にあります

われわれは、変わりつつある敬語とどのように付き合うべきなのでしょうか?

「丁寧な言葉遣い」を心がければいい

そのヒントを教えてくれるのが、フリーアナウンサー・宮本ゆみ子さんの著書『がんばらない敬語 相手をイラッとさせない話し方のコツ』(日経BP・日本経済新聞出版)です。

本書の冒頭では、「いかにも敬語という表現は使わず、単純に丁寧な言葉遣いを、心を込めて使ったほうがよほど洗練されています」と記されています。

これには筆者もまったく同感です。オンラインコミュニケーションを使いはじめた当初は、相手もこのやり方の初心者なので、互いにどれくらい丁寧な敬語を使えばいいのかを探り合って、少し疲弊しました

そうではなく、相手への敬意というマインドが大事。あとは「単純に丁寧な言葉遣い」にすればOKなのです。

それが腹落ちしてから、随分とZoomの使用に対する抵抗感が減りました。

「ございます」の落とし穴

また、宮本さんは本書の中で、「間違った敬語を使うくらいなら、むしろ使わないほうがいい」とも説いています。

例がいくつか挙げられていますが、その中に「ございます」と「いらっしゃいます」があります。

これは敬語の達人でも間違えやすい表現だそうです。

たとえば、上司に面会しにきた田中さんという人に、あなたが応対したとします。

その際に、

「田中様でございますね。取り次ぎますので、少々お待ちください」

これは敬語表現として〇か×か、すぐわかりますか?

これは×です。正解は「田中様でいらっしゃいますね」です。

宮本さんは、次のように解説を加えます。

「ございます」も、確かに敬語です。

でも、一般的には敬意を払う相手に対して使う単語ではありません。にもかかわらず「いらっしゃいます」と言うべきところを「ございます」と言ってしまう人が後を絶たないのは、「ございます」を使うと、なんとなく敬語を使った気分になってしまうからかもしれません。(本書81pより)

そこから一歩進んで、「田中様ですね」とシンプルに言うだけでもOKだと宮本さん。

これには筆者も同感です。あやふやな敬語理解で落とし穴にはまるよりは、単純な受け答えをしたほうがベターなのです。

「拝見させていただきます」は二重敬語で誤り

また最近、「拝見させていただきます」「このたび、本を出版させていただきました」というような言い回しを、よく耳にします。

宮本さんも、この言い回しについて言及しています。

まず、「拝見させていただきます」は、二重敬語となり文法的にも間違いと指摘します。

これは「拝見します」でいいのです。

一方、「このたび、本を出版させていただきました」は文法的には間違いではありません。

文化庁によると、「〜させていただきます」は、「相手もしくは第三者の許可を受けて行なう」「自分が恩恵を受ける」の両条件を満たすなら適切なのだそうです。

出版は、編集者の「許可」があってなされるものだから、厳密には間違っていないでしょう。

ただ、こういった表現を連発されると何か違和感があります。普通に「出版しました」だと、話し手の気持ちとしては物足りないのかもしれませんが…。

宮本さんは、次のような見解を述べています。

「とにかくなんでもいいからへりくだっておこう」という、相手に対しての敬意よりも自分の保身のために使われる傾向が多く、そのニュアンスが鼻につくこと。

そしてもうひとつは、「させていただく」のサ行が摩擦音によって発音されているため、音として過剰に耳につくという、物理的な側面です。(本書177〜178pより)

やはり、この点についてもシンプルなほうがよさそうです。


言葉は「生き物」とよく言われるように、敬語も時代の流れとともに変わっていくものです。

なので、これが未来永劫、絶対正しいというものはないのですが、ここしばらくの傾向としては「シンプルでいこう」というのが暗黙の了解となっている気がします。

敬語を使う場面で迷ったら、この方針でいいのではないでしょうか。

──2023年4月12日の記事を再編集のうえ、再掲しています。

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執筆: 鈴木拓也/Source: Amazon