平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。4月28日放送の第17回「うつろい」では、ますます病状が悪化した藤原道隆の後継争いが本格化。立つ鳥跡を濁しまくりな、道隆の最後のあがきも視聴者を圧倒した(以下、ネタバレあり)。

■ 第17回「うつろい」あらすじ

藤原道長(柄本佑)の兄で、関白の道隆(井浦新)の病は、安部晴明(ユースケ・サンタマリア)が完全に見捨てるほど進行。道長の姉・詮子(吉田羊)は、道長のもうひとりの兄・道兼(玉置玲央)が次の関白になるよう、公卿たちをまとめることを道長たちに約束する。一方道隆の娘で、一条天皇(塩野瑛久)の中宮・定子(高畑充希)も、兄の伊周(三浦翔平)への権力移行のために動き出す。

いよいよ重体となった道隆は、定子には早く皇子を産むよう命じ、一条天皇には伊周を関白にするよう執拗に迫る。しかし関白の言いなりにはならない決意をした天皇は、道隆が病の間だけ、伊周を内覧(天皇に提出する文書を最初に確認する役職)にするという決定を下した。道隆は自分の一家の将来を憂いつつも、妻・高階貴子(板谷由夏)との出会いの思い出を振り返りながら、この世を去った・・・。

■ 壮絶な最期の日々、道隆を演じきった井浦新

2012年の『平清盛』での崇徳院役が、今なお大河ドラマファンの間では語り草となっている井浦新。今回演じた藤原道隆は、多少短命とはいえ最後まで栄華を謳歌した人物で、しかもこのドラマでは知的で品行方正な人物として描かれたので、対極の役を振られたのだなあと思っていた。しかしこの第17回で描かれた道隆の最期の日々は、日の本を呪う怨霊と化した崇徳院を彷彿とさせるほど壮絶なものだった。

水を異様に欲したり、目が見えなくなる「飲水病(糖尿病)」であったと推察される道隆。そうした肉体の衰弱が精神の衰弱を招いたうえに、娘は帝の皇子をいまだにもうけず、跡取り息子もまだ若いとくれば、家の将来を悲観してなりふり構わない行動に出るのも致し方ない。しかし完全にマタニティハラスメントな娘への命令も、帝の御簾を上げるなどの無礼千万な行動も、ドラマ開始時の道隆からは想像もできないほどの醜態だ。

とはいえその最期は「儀同三司母」こと貴子から送られた「忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな(いつまでも愛するというその約束を守るのは難しいから、いっそ今日のうちに命が尽きてほしい)」という歌を噛み締めて逝くという、恋愛面では満ち足りたと言えるものだった。

そういえば父・兼家(段田安則)も、やはり妾の「藤原道綱母」こと寧子(財前直見)からの恨み節と言える歌を、いまわの際で思い出していた。そしてどちらも、百人一首に選ばれたほどの名句。家の存続の執着だけでなく、それほどの歌を作らせるほどの男性的魅力があったという点でも、この2人は似た者親子なのだった。

■ スリル増、ポスト道隆争いに嫁・姑の代理戦争

そして安倍晴明が「寿命が尽きる」と断言したのが皮切りとなったように、ポスト道隆争いがスタート。有力候補は道隆のすぐ下の弟・道兼と、嫡男の伊周だ。そしてこの戦いの中心になったのが、どちらも男性ではなくて女性だったというのが、『光る君へ』のおもしろいところ。政に女性が関われる可能性がほぼゼロだった時代において、男性よりも女性の方が積極的に根回しをおこなったり、先を見据えた入念な下調べをするなんて予想もしていなかった。

ただ、女性として初めて院号を賜り、藤原実資(秋山竜次)に「政に首ツッコミすぎ」と日記でグチられた詮子はともかく、定子に政治的なセンスがあったかどうかは定かではない。でもそう言われると、知性の高さはもちろん、清少納言(ファーストサマーウイカ)に知恵比べを仕掛けるほどの勝ち気な一面を持つ女性。政のシステムに関心を持ち、そのなかでどうすれば家族の地位を上げられるか? を考えていたとしても、おかしくはないだろう。

そして表情などから薄々と感じてはいたが、やはりこの嫁(定子)と姑(詮子)は、お互いを疎ましく思っていたことが、今回ハッキリと2人の口から告げられた。それによって、このポスト道隆争いに嫁・姑の代理戦争の側面も加えられて、よりスリルが増すことに。

もしかすると、ほぼ男性の独擅場だった日本の政治史のなかでは、こうやって裏番長的な感じで政治を動かした女性というのが、もっと存在していたのかもしれない。そしてこのバトルの結果は、歴史という名のネタバレを知らない人は「事実は小説よりも奇なり」というものになるので、まずは来週を楽しみにしてほしい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。5月5日放送の第18回「岐路」では、道隆の次に関白に選ばれた人物の思いがけない結末と、まひろが藤原宣孝(佐々木蔵之介)や「清少納言」ことききょう、そして道長と再会する姿が描かれる。

文/吉永美和子