日本とアメリカ、フィリピンの3カ国の首脳がアメリカのホワイトハウスで会談。対中国を意識した動きに対し、米国内からも冷めた見方が出てきているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、世界が“アメリカの衰退”を前提にした動きを始めているとする米外交誌『フォーリン・ポリシー』編集長の言説を紹介。『ニューズウィーク』のインタビューでのインドのモディ首相の注目発言を取り上げ、世界には日本やフィリピンとは真逆の思惑や動きがあることを伝えています。

インド、フィリピンとの争いから見える いまが中国との問題解決の好機

岸田文雄首相が、ジョー・バイデン大統領の招きを受け、国賓待遇で訪米した。このニュースは中国でも大きく取り上げられた。中国は、日米がミサイルシステムの強化や米英豪の安保枠組み「AUKUS」への日本参加の可能性、台湾問題を話題にすることなどで警戒してきた。それに加え今回はフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領も招いて日米比の首脳会談を行った。

中国の視点からすれば、台湾海峡から南シナ海に至るまで中国包囲網が着々と築かれているような危機感を抱いたはずだ。当然、中国外交部の報道官は連日のように、強い口調で日米比をけん制し続けた。

だが、ワシントンの動きが中国を確実に追い詰めているのかといえば、実態は必ずしもそうなってはいない。現状を見る限り、アジアで使いやすい駒を使い中国に嫌がらせをしている構図が透けて見えるだけで、広がりに勢いはない。むしろバイデン政権のこうした仕掛けは、「衰退するアメリカの反動」という文脈でとらえられる面もあるようだ。

4月8日、米外交誌『フォーリン・ポリシー』のニューズ・レター『EDITOR’S NOTE』での指摘もそうだ。筆者のラビ・アグラワル編集長は「米国が相対的に衰退していると考えるかどうかにかかわらず、ひとつはっきりしているのは、世界の他の国々はすでにそうであるかのように振る舞っている」と喝破する。すでに「ミドルパワーと呼ばれる国々は、進化する世界秩序をいかに利用すべきかを模索している」と。

その典型例としてアグラワルが挙げるのがインドだ。インドの存在感が国際社会で高まるにつれて、アメリカは対中国でのインドを重視するようになった。しかしそのインドは西側先進国を中心とした従来の国際秩序に必ずしも従順ではない。

実際、インドの不可測性は、ワシントンで日米比が中国を取り囲むための首脳会談を行おうとする直前に発揮された。世界を驚かせたのは米誌『ニューズウィーク』のインタビューに応じたナレンドラ・モディ首相の発言だ。モディは、中国との「長期化した国境の状況」に言及するなかで、「早急に対処する必要がある」と、歩み寄りともとれる発言をしたのである。

中国とインドは2020年、ヒマラヤの国境係争地帯で両軍に死者を出す衝突を起こして以降、激しく対立。関係をこじらせてきた。モディのインタビューは下院総選挙を間近に控えたタイミングで行われた。つまり、9.7億人といわれる有権者を意識して発せられたのだ。インタビューの当該部分を以下に抜粋しよう。

「インドにとって中国との関係は重要でかつ意義深い。二国間交流における異常な状態を解消するために、国境における長期化した事態に早急に対処する必要がある。中国との安定した、平和な関係は、両国だけでなく、地域や世界全体にとっても重要だ。私は外交・軍事レベルでの積極的かつ建設的な二国間の接触を通じて、両国の国境の平和と安定を回復し、維持することができると望み、信じている」

反目を続けてきたインドからのある種のラブコールだが、モディの発言に対する中国の反応も素早かった。中国外交部の毛寧報道官は「現在、中印は外交・軍事ルートを通じて国境情勢に関する問題の解決について緊密な意思疎通を保ち、積極的な進展を遂げている」とした上で、「われわれはインド側が中国側と歩み寄り、戦略的な高みと長期的な視野をもって二国間関係を理解し、相互信頼を揺ぎなく進め、対話と協力を堅持し、意見の相違を適切に処理し、両国関係が健全で安定した軌道に戻って前進するよう推進することを希望する」と答えている。

中国もインドも話し合いで問題を解決することに積極的だ。少なくとも諍いを抱えることで第三国に付け込まれ利用されるデメリットをきちんと把握しているという点で、さすがに大国だと言わざるを得ない。

一方でアメリカの先兵として南シナ海で中国と向かい合う道を選んだフィリピンは、前政権と中国との約束をめぐって紛糾する。マルコス大統領が前大統領のロドリゴ・ドゥテルテが中国との間で結んだ「紳士協定」を「知らなかった」として、「密約」「ぞっとする」と批判したからだ。

一国のトップが前大統領の約束を「知らなかった」と反故にできるならば中国は被害者だ。しかもマルコスが「ぞっとする」と批判した紳士協定の目的は現状維持であり、妥協ではない──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年4月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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