「主人公死亡」展開がもたらした後味、余韻の違い

 アニメやマンガ作品において、「主人公死亡」は読者や視聴者にとって驚きが大きい展開なのではないでしょうか。今回は、物語終盤や最終話で主人公が死んでしまった、さまざまなタイプのマンガ作品を振り返ります。

※この記事では『海のトリトン』『BANANA FISH』『暗殺教室』の終盤の展開に触れています。

●『海のトリトン』

「マンガの神様」手塚治虫先生が手がけた『海のトリトン』は、主人公の「トリトン」が自身の身を捧げるクライマックスを迎えた作品です。

 1969年から1971年にかけて「サンケイ新聞」で連載された同作は、小さな漁村に住んでいた少年の「矢崎和也」が赤ん坊のトリトンを拾ったことがきっかけになり、和也の一家が不思議な事件に巻き込まれていくというファンタジー作品です。その後に、トリトンは海人(うみびと)であるトリトン族の末裔であることが判明し、さらに地上征服計画を企む海の世界を統治する王「ポセイドン」を食い止めるために奔走します。

 物語終盤では、不死身であるポセイドンとの一騎打ちになり、その戦いのなかで、眠りについていた代々のポセイドン一族が一気に覚醒しました。トリトンは、苦肉の策としてポセイドンたちをロケットに誘導し、地球外に打ち放つことに成功します。

 そして、そのロケットにはトリトンも乗っており、ポセイドンとともに宇宙の彼方へ消えていくのでした。その際には、「ひとつ 小さな星が消えていきました トリトンのいのちと ともに」という哀愁のあるナレーションが綴られています。

「主人公死亡」と聞いて同作を思い出す人も多いようで、「トリトンの死は悲しいけど、息子のブルーがトリトンの名を継ぐというラストは素晴らしかった」などの声もあがっています。

 ちなみに、1972年から放送されたアニメ版の最終話は、「トリトン族の祖先のせいでポセイドン族が苦しい目にあっていた」という事実が判明し、さらにポセイドン族の海底都市が崩壊して1万人が死亡するという、後味の悪い結末で知られています。富野喜幸(現、富野由悠季)氏の初監督作品であり、唯一、脚本を担当した最終話で当初の構想から大幅に改変したことで、虫プロを出禁にされたそうです。

●『BANANA FISH』

 2018年にアニメ化もされたマンガ『BANANA FISH』(作:吉田秋生)は、1985年から1994年まで「別冊少女コミック」(小学館)にて連載された人気作です。同作も最後に、主人公が命を落としてしまいます。

『BANANA FISH』は、ストリートキッズのボスである主人公の「アッシュ・リンクス」とカメラマン助手の「奥村英二」が、「バナナフィッシュ」という謎の言葉の真相を巡って奔走する物語です。終盤でバナナフィッシュは違法薬物であることが発覚し、アッシュたちが奮闘した結果、マフィアに悪用される前に、バナナフィッシュに関する一切は消失します。

 長い戦いが終わった後、苦楽をともにした英二が帰国することになり、見送るつもりはなかったアッシュは、彼からの手紙を読んで気持ちが抑えきれなくなり、やはり空港に向かおうとします。しかし、待ち伏せしていたチャイニーズギャングの一員である「ラオ・イェン・タン」が、復讐のためにアッシュの腹部に刃物を突き刺しました。そして、アッシュは図書館で英二の手紙の上に突っ伏した状態で絶命するのです。

 読者からは、「途中から死ぬのは覚悟したけど、ページをめくりたくないくらいにアッシュの死が受け入れられなかった」「アッシュの死ほど虚無感が拭えなかったものはない」「ハッピーエンドに見せかけての急降下だったから、衝撃がすごかった」といった声があがっており、アッシュの死を受け止められなかった人が多かったことがうかがえます。

主要キャラの死が「きれいな終わり方」を演出?

●『暗殺教室』

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 2012年から2016年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載された『暗殺教室』(作:松井優征)も主人公のひとりである「殺せんせー」の死が描かれており、その後に感動的なラストが訪れました。

 同作は、進学校「椚ヶ丘中学校」の落ちこぼれが集まった、3年E組が舞台です。その担任として、月を爆破して次の標的を地球に定めている謎の生物「殺せんせー」が就任します。E組の生徒たちは彼を殺すことを課され、全21巻を通して教師と生徒の異常な日常が描かれました。

 物語終盤では、最終決戦で弱った殺せんせーが、愛する生徒たちの手によって殺されてしまいます。それまでには、お世話になった殺せんせーを殺すことに葛藤したり、殺せんせーが最後の出欠を取ったりなど、悲しい別れの演出が展開されました。

 そして、殺せんせーが死んでから7年の月日が経った最終回では、元生徒たちは殺せんせーが残したアドバイスブックをもとに、自身の未来を切り開いている姿が描かれます。殺せんせーにとどめを刺したもうひとりの主人公「潮田渚」は教育実習生として、不良だらけの高校で初めての授業を迎えていました。

 ひとりの生徒に「殺すぞ」と脅されるも、渚は殺せんせーの授業で培った暗殺スキルで黙らせます。そして、「殺せるといいね! 卒業までに」と笑顔で声をかけ、教壇に立ち「席について 授業を始めます」と言って物語が幕を閉じるのでした。

 殺せんせーの最期やエピローグに感動した読者は多く、「きれいに終わった作品」として定評があります。ネット上では「殺せんせーの最期は号泣した。生徒ひとりひとりの名前を呼ぶって反則」「殺せんせーが死んだ後にスパッと連載が終わったのは良かったと思う」などの声があがっていました。