2021年6月、福岡県のあるエリアの歩道によく出没するガリガリの長毛の黒猫がいました。心配した地元の猫カフェ・Cafe Gattoのスタッフは、他の外で暮らす猫と一緒にこの黒猫の保護を行うことにしました。

何回目かのトライでなんとか保護できた黒猫でしたが、とても怖がり。なかなかスタッフに馴れず、ちょっとしたことでビクッとしてしまいます。あまりのビビリから逆に攻撃的になる猫もいますが、この黒猫は極めて穏やかな性格のようで、怖がりながらもスタッフや他の猫を威嚇するようなことはありませんでした。

ビクビクの頂点は「病院に連れていかれること」

後にこの黒猫は「すみたん」と名付けられました。

時間が経つにつれ、すみたんはスタッフのそばに来てくれるようになり、体をなでさせてくれるようにもなりました。しかし、予想外の音や他の猫の突然の動きにまたビクッ。キャリーに入れようとすればまたビクッ。特にすみたんが苦手な「病院」に行くことを察知すると、激しく抵抗。ときには呼吸が荒くなり、粗相してしまうこともありました。

自分のエサを他の猫に奪われてしまうこともありました。もしかしたら保護当初ガリガリに痩せていたのは、外で暮らしていた猫の中でもなかなかエサにありつけなかったせいなのかもしれません。

しかし、そんなすみたんの控えめな性格はスタッフにはかえって愛らしく映りました。他の猫と仲良くしながらも、でも負けないようにと日々すみたんを応援し、たっぷりの愛情を注ぎました。

他の猫と仲良くできるようになったのに

すみたんは次第に他の猫とも仲良く接することができるようになりました。Cafe Gattoの施設内では、他の猫と一緒に「ご飯待ち」できるほどに成長してくれたことを受け、「本当に良かった」とスタッフは喜びました。

ところが、2023年11月頃、すみたんの体調に異変が起こりました。食べる量が極度に少なくなり衰弱。以来、他の猫と接することも拒み、キャリーやキャットタワーの中に籠るようになってしまいました。好きだったちゅーるを与えても、少ししか口にしてくれません。

スタッフはコットンに水を湿らせて水分を摂取させるなどの工夫をしました。それでもすみたんの体調は回復することはなく、日に日に表情から元気がなくなっていきました。

足を駆けるように虹の橋を渡った

そんな状況では、すみたんはよろけながらも立ち上がりました。そして数歩歩く姿を見せてくれました。スタッフは「すみたんの命はもう長くないかもしれない」と覚悟しつつ、それでも懸命な姿に「すごいね!」と声をかけました。

お別れは翌朝でした。

いつも寝ていた場所から、すみたんが移動しており、その周囲の床にはおしっこをした跡がありました。そして、すみたんは小さく息をしていました。その姿はまるで「この世に受けた命を最後まで全うするのだ」と語っているようで、スタッフは涙が止まりませんでした。

最後まで頑張るすみたんを労うかのように、他の猫たちはすみたんのそばに寄ってきて、その体をなめてあげていました。

「すみたん、本当にありがとうね」とスタッフは声をかけました。すみたんは少しだけ後ろ足を駆けるように動かし、グワッと小さく鳴いてそのまま虹の橋を渡っていきました。

控えめな性格ながら最後まで頑張ったすみたんにスタッフはこう声をかけました。

「すみたん、最後までよくがんばったね。お疲れさま。これからは虹の橋の向こうで、安心してすみたんらしく過ごしてね」 

(まいどなニュース特約・松田 義人)