「公害の原点」といわれる水俣病は1956年に公式確認されてから1日で68年となり、熊本県水俣市で犠牲者慰霊式が営まれた。被害者救済をめぐる訴訟がなお続き全面解決が見通せない中、式典には患者・遺族をはじめ、環境省や原因企業チッソ(東京)の関係者など670人が参列し、犠牲者に祈りをささげた。

 市と実行委員会の主催。伊藤信太郎環境相や木庭竜一チッソ社長も参列し、水俣湾沿いの水銀埋め立て地にある犠牲者慰霊碑の前で全員で黙とうし、花を手向けた。患者・遺族代表の川畑俊夫さん(73)=同市=が「水俣病で亡くなった多くの命を決して無駄にしないよう、二度と公害病を起こさないよう願う」と「祈りの言葉」を述べた。

 水俣病を巡っては、水俣病被害者救済特別措置法(2009年施行)に基づく救済を受けられなかった住民ら約1600人が国と熊本県、チッソに損害賠償を求める集団訴訟を起こし、このうち一部の原告について2023年9月に大阪地裁は原告勝訴、24年3月には熊本地裁が原告敗訴の判決を言い渡し、裁判は現在も続いている。

 式典後にあった患者団体と環境相との意見交換で、集団訴訟を起こしている「水俣病不知火(しらぬい)患者会」の岩崎明男会長(70)=同県天草市=は「被害者が日々亡くなっている。猶予はない」と早期解決を訴えた。伊藤環境相はその後の記者会見で「(現行の水俣病認定制度を定めた)公害健康被害補償法の丁寧な運用に取り組んでいく」と述べ、新たな救済制度の導入などに否定的な考えを示した。

 この日は慰霊式とは別に患者団体「水俣病互助会」(水俣市)主催の慰霊祭も同市内であり、高齢化する患者の生活を支え、被害を伝えていく大切さを訴えた。【中村敦茂、西貴晴】