婚姻関係にないカップルの子は、自分の精子で女性を妊娠させた人が法的に男性であっても女性であっても認知を求めることができる――。最高裁が21日に示した初判断は「子の利益」を重視して、既存の法制度が想定していない親子関係を認めた。判決に対する評価の声が聞かれる一方、多様化する家族の実態に合わせた法制度の見直しが必要との指摘も出ている。

 「法的な関係が認められてうれしい。今の時代にアップデートされた判決だ」。次女との父子関係が認められた40代女性は判決後、談話を発表した。

 日本では2003年に性同一性障害特例法が制定され、自身の性別に違和感を持つ性的少数者の性別変更が可能になった。ただ、子の立場をどう考えるかで議論があり、家族秩序の混乱を避けるためとして、未成年の子がいない「子なし要件」が設けられている。

 今回の訴訟は、男性から性別変更した女性と、血のつながりがある未成年の子との父子関係が認められるかが争点だった。最高裁が是認すれば、子なし要件と食い違うことにならないか、とする見方があった。

 第2小法廷の尾島明裁判長は補足意見で、特例法制定時から今回のように生殖補助医療により子をもうけて認知が問題となる事態が想定されていたが、法整備がされてこなかったと指摘。「女性の父」の存在によって家族秩序の混乱が起こるかどうかも、具体的とは言いがたいと述べた。

 子なし要件に疑義を投げかけたと受け取ることもでき、判決後に記者会見した次女の代理人の仲岡しゅん弁護士は「シンプルで常識的な判決。子なし要件は要らない」と評価した。子を持ちたい女性カップルらの相談を受けている一般社団法人「こどまっぷ」の長村さと子代表理事も「多様な家族が社会には存在しており、関連する法制度を現実に合わせてほしい」と望んだ。

 金沢大学の稲葉実香教授(憲法)は「現在の家族法は男女が夫婦となって自然生殖で子を産み育てることが前提で、『父が男性であること』が当然とされてきた。最高裁は子の福祉や利益を優先して、父についての解釈を柔軟にしており、妥当な判断だ」としつつ、「生殖補助医療が発展し、性のあり方が多様化する中で、法と現実の間に矛盾が生じている。法制度全体の再構築が必要だ」とみる。【木島諒子、菅野蘭】