11月の米大統領選に向け、民主党のバイデン大統領は28日、南部ノースカロライナ州で開いた選挙集会で演説した。言葉に覇気がなく精彩を欠いた前日のトランプ前大統領(共和党)との討論会とは打って変わり、集まった聴衆に力のこもった声で支持を呼びかけた。

 一方、民主党内では、バイデン氏に出馬を取りやめるよう説得する動きが出てきたとの報道もあり、先行きは混沌(こんとん)としている。

 「私は以前ほど楽に歩けない。以前ほどスムーズにも話せない。議論も以前ほどうまくはできない。だが、真実を伝える方法は知っている。そして、この仕事をどうこなせばよいのかも分かっている」

 28日のバイデン氏は、約20分間の演説で拳を突き上げるような仕草も見せ、力強く語りかけた。時折せきはしたものの、前日のようなかすれ声ではなかった。

 バイデン氏はさらに「何百万もの米国人が知っているように、(私は)打ちのめされても立ち上がることができる」と強調。トランプ氏に対しては「討論会でついたうその数で新記録を樹立したと思う」と批判した。討論会で顕在化した高齢に対する懸念の払拭(ふっしょく)を図った形だ。

 ただ、討論会でのバイデン氏の低調なパフォーマンスが、民主党内に与えた衝撃は大きい。米ニュースサイト「アクシオス」によると、党内からは「ひどいパフォーマンスだった」「もう討論会に出てほしくない」などと実名で語る議員が複数出ている。

 さらに、米メディア「ポリティコ」によると、民主党の下院議員の一人は「出馬を断念するよう説得する動きは本物だ」と明言した。ただ、党幹部の多くは「説得は難しい」と考えているという。ある民主党の州知事は「討論会はひどすぎた」としつつ、候補者を代えるには「遅すぎる」との見方を示した。

 ◇性的少数者の聖地も訪問

 また、バイデン氏は28日、東部ニューヨーク市の性的少数者(LGBTQなど)の聖地も訪れた。

 同市では1969年6月28日、ゲイバー「ストーンウォール・イン」で警察の不当な取り締まりに対する同性愛者たちの暴動が起きた。性的少数者による人権運動の原点となったこの出来事は、「ストーンウォールの反乱」と呼ばれる。

 バイデン氏は発生から55年を記念して作られた展示施設の開業式典に出席。「バックグラウンドに関係なく、誰もが尊厳と敬意を持って扱われるべきだ」などと張りのある声で演説し「健在ぶり」をアピールした。

 AP通信によると、2020年大統領選でバイデン氏を支持した性的少数者は約7割に上る。バイデン氏は式典出席を通じ、性的少数者に寄り添うことで、改めて支持を呼び掛ける狙いがあったとみられる。会場周辺には性的少数者への連帯を示す虹色の旗を持った人たちが集まり、訪問を歓迎した。

 一方、バイデン氏に批判的な性的少数者もいた。リー・テイラーさん(32)はパレスチナ自治区ガザ地区を攻撃するイスラエルを支援するバイデン氏には「同意できない」と主張。「子どもの命が奪われているこの戦争に関し、バイデン氏は明確な否定の言葉を発していない」と指摘した。【ワシントン松井聡、ニューヨーク中村聡也】