健康のために歩くことの効果は科学的に証明されており、肉体だけでなく心と脳にも良い影響をもたらします。ストレスが解消され、脳の活性化や認知症のリスク低減にもつながるとされています。歩くことが健康維持に欠かせない理由と実践する方法を呼吸器内科のスペシャリストの大谷先生にお伺いしました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。

1日1万歩が不安やストレスを減らします
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睡眠の質が上がる
歩くときに朝または昼間の太陽光を浴びると、夜に"睡眠ホルモン"と呼ばれる「メラトニン」が増え、よく眠ることができます。深い眠りに入ると骨や筋肉の健康を維持し、体の状態を保つ成長ホルモンも分泌されます。また、1日の歩数は「睡眠効率」と関連しているという結果も。1日の歩数が多いほど睡眠効率が良い(質の良い睡眠が取れる)ことが分かっています。
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うつのリスクが低下
東京大学大学院の調査では、1日1万歩(2カ月で60万歩)を目標に歩くと、不安や抑うつが改善したことが分かっています。ただし、女性は歩き過ぎると逆効果だったので、頑張り過ぎには注意。毎日約20分歩くだけでも、将来の発症リスクは低下します。
自律神経が整う
自律神経には、心身の活動時に活発になる交感神経、リラックス時に活発になる副交感神経の2つがあり、ウォーキングのような軽い運動を行うとバランスが整うことが科学的に証明されています。特に運動後は副交感神経が優位となり、緊張や不安が改善。きつい運動よりゆったりした運動の方が有効で、1回でも効果が出ます。
「なんとなく不調」を解消
病気ではないのに「家事のやる気が出ない」「疲れが取れない」といった不調は、自律神経の乱れが原因の場合も。歩くことで交感神経と副交感神経のバランスが取れれば、これも解消につながります。また、自律神経は呼吸で整えられるため、深呼吸を意識しながら歩くと効果的。
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1日1万歩が脳を活性化します
認知症の発症リスクが半減
週2回以上、ウォーキングなどの軽い運動をすると、認知症のリスクが半減(世界五大医学雑誌『ランセット』の関連医学雑誌より)。軽度認知障害(認知症に進む前の段階)も、ウォーキングと食事で改善できるという科学的根拠も。軽度認知障害には該当せずとも少し心配がある人の認知機能も、週3回、20〜40分歩くことで改善します。
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発想力が向上
歩くことにより規則正しく体を動かすと、脳が活性化します。アメリカ・スタンフォード大学で、歩きながら創造性を求める課題に取り組む実験を行ったところ、そのスコアは60%以上も向上。そして、この効果は、その後に座った場合も16分間持続します。仕事や家事などの考え事をするときは、歩いてみるのがおすすめです。
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根気が続く
目標達成まで粘り強く行動を続けるには、不安を抑える幸せホルモン「セロトニン」が必要なことが、慶應義塾大学のマウス実験で解明されています。セロトニンを体内で産生する最大の方法は、太陽の下を歩くこと。「すぐ飽きる」「不安でくじける」という人は、歩くと根気を養える可能性があります。
構成・取材・文/岡田知子(BLOOM) 撮影/木下大造 モデル/永谷佳奈(オフィス美江) イラスト/原田マサミ



<教えてくれた人>

池袋大谷クリニック 院長
大谷義夫(おおたに・よしお)先生

群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、アメリカ・ミシガン大学留学などを経て、2009年より現職。国内屈指の呼吸器内科のスペシャリストとして、メディアなどで情報を発信している。著書も多数。