80歳以上はほぼ全員がなると言われている「白内障」。唯一の改善方法である、人工の眼内レンズを使った手術では、レンズの選び方が重要になります。今回は眼科専門医の平松類先生に、白内障レンズの手術に関する質問にお答えいただきました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。

平松先生、もっと教えて!Q&A
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Q1.手術のタイミングは早いほうがいいですか?
A.「ギリギリまで待つ」か「早めに受ける」かは、自分で決められます
「一般的には両目の矯正視力が0.7に満たなくなったときが手術のタイミングとされています。ですが、手術のタイミングは医師が全て決めるのではなく、ある程度自分で決められます。『不安だからできれば手術は受けたくない』人は、ギリギリまで待つ、『見えづらさに不自由を感じる』『目を使うことが多い』人は、早めに受けることをおすすめしています」

Q2.手術をするのを少しでも遅らせるために気を付けることは?
A.「目のダメージ」を避け「目の回復」を心がけましょう
「『目のダメージ』には、紫外線をよく浴びる、目をこする、目の周りのケガなどがあります。外出時にはUVカット99%以上のサングラスを着用する、目がかゆくてもこすらずに冷たいタオルで冷やす、草刈りや日曜大工などでは防護眼鏡などで目を守るなどを心がけます。『目の回復』には目のダメージを吸収するブルーベリー、ほうれん草、ゴーヤなどの抗酸化物質やバランスの整った食事も大切です。老化を促進させる食べ物の焦げ目などのAGE(終末糖化産物)の摂り過ぎには要注意です」
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Q3.手術後に気を付けなければならないことは何ですか?
A.小さな傷口でも油断禁物。目は他の臓器より感染しやすい
「とにかく目をこすらないことです。細菌が入って感染症を起こすと、失明する恐れもあります。目を温めるのも禁物です。術後は少なからず目に炎症が起きている状態なので、温めると血流がよくなり炎症を悪化させます。手術当日は医療機関により異なりますが、家事も必要最低限に。翌日までは散歩や入浴・洗髪・洗顔は禁止です。術後2週間以内は急な見えづらさがないか片目ずつチェックしてみましょう。異常があったらすぐに受診してください。1カ月で通常通りの生活が送れるようになります。度数も安定してくるので、眼鏡を合わせるのはこの時期くらいからがおすすめです」


Q4.レンズが合わなかった場合、どうしたらいいですか?
A.どうしても見えづらい場合は再手術も検討可能です
「多焦点レンズの見え方に慣れない、不具合を感じるなどで単焦点レンズに入れ替える人が2〜3%程度います。ごくまれに単焦点レンズから多焦点レンズに入れ替える人もいます。一度手術を受けたら二度と受けられないことはありません。入れ替えの費用は保険の利く場合と自費の場合があります。術後早期であれば、比較的安全に再手術が可能です。時間が経つと、眼内レンズが目の中で固着し、入れ替えが難しくなります。見えづらい場合は、医師に相談してみてください」


Q5.過去にレーシックを受けたのですが、何か影響はありますか?
A.レンズの度数の計算が難しくなります
「レンズの度数はこれまでの多くの患者さんのデータを使った世界的な計算式に基づいています。しかし、レーシック手術後に白内障手術を受けた人のデータは多くないので、より正確な数値を出すのが難しく、計算とずれてしまうことがあります」
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Q6.緑内障といわれていますが、手術は受けられますか?
A.目の力が弱っている人には、多焦点レンズはすすめられません
「一般的に、緑内障や他の眼底の病気など、白内障以外に目の病気があると多焦点レンズは適応になりません。多焦点レンズはその特性上、光を振り分けて見ることになるため、緑内障などで目の力が弱っている人は、期待したような性能が発揮されず不満に感じることがあります。特に夕方以降の薄暗い時間帯は見えにくく感じます。中心付近の見え方が比較的良好で、軽い病状の場合、多焦点レンズが入れられる場合もあります」

Q7.手術をした後、すぐに見えるようになりますか?
A.人によってまちまちです
「手術の後、パッと見えるようになるイメージがあるかもしれませんが、残念ながらそうはいきません。手術翌日からよく見える人もたくさんいますが、手術の影響で角膜に一時的なむくみがあったり、眼内レンズを通した見え方に脳が慣れていなかったりして、見えるようになるまでに時間を要することもあります。濁っていた水晶体を取り去ったので、光がまぶしく感じたり青みがかって見えたりすることも。長くとも数カ月程度で気にならなくなるので、ゆっくり焦らず治療していきましょう」
取材・構成・文/古谷玲子 イラスト/ノグチユミコ



<教えてくれた人>

二本松眼科病院 副院長
平松 類(ひらまつ・るい)先生

昭和大学医学部卒業、医学博士・眼科専門医。著作やテレビ出演など積極的なメディア活動を通して分かりやすい医療情報を提供。YouTube「眼科医平松類チャンネル」は23万人以上の登録者数。