第一生命ホールディングスの本社(東京・有楽町)

第一生命ホールディングス<8750>がM&Aに積極的だ。背景にあるのは、少子高齢化。本業である生命保険の需要拡大に、将来的な明るさが見込めないからだ。そこで現在、収益強化のために取り組んでいるのが、国内では伝統的な生命保険を中心とした保障領域に止まらず、「非生命保険」「生活の質(QOL)の領域」での商品・サービスの拡大。一方、生命保険事業の成長への活路は、アジアや米国などの海外市場に見出した。積極的なM&Aが、それらの成長エンジンとなっている。

日本初の「相互会社」から「株式会社」へ

第一生命ホールディングスは1902(明治35)年9月15日の設立。日本で初めての相互会社であることから、社名に「第一」を冠したのがはじまりだ。

戦後、転機が訪れたのは1997年以降の金融危機。日産生命をはじめ、東邦生命や千代田生命、第百生命、協栄生命といった中堅生保が相次いで経営破たんした。

当時の経営破たんは、金融の自由化やグローバル化の影響や、1980年代の予定利率の引き上げが主たる原因とされる。1990年に一時8%を上回った10年物国債の利回りが、バブル崩壊でその後1%を下回り、予定していた保険金の支払いが難しくなった。89年12月に3万8915円をつけた日経平均株価も1万円を割り込んだ。これに金融危機が追い討ちをかけた。

生保業界は経営再編を余儀なくされたが、このとき再編の“足かせ”になったのが、「相互会社」の仕組みだ。海外の保険大手は株式会社が主流なため、仮に国内生保の“救済”に入ろうとしても実現はままならなかった。破たんした中堅生保はすべて相互会社で、大手生保は大手銀行との資本業務提携で糊口をしのぐことになる。

そこで浮上したのが、相互会社から株式会社への転換。相互会社では、保険契約者が株式会社の株主に当たる。つまり、保険契約者の人数が、ほぼそのまま株主数というわけだ。そのため、2010年の第一生命の株式会社化で、東京証券取引所は異例の措置を講じて東証1部(現プライム市場)に上場させている。

第一生命は株式会社化に当たり、保険契約者を保険金の支払い実績に応じて株式の受け取り、もしくは株価相当分の現金支給のいずれかを選択するようにした。その保険契約者数、つまり株主は約150万人(当時)にのぼった。

一方、その株主数の多さや注目度の高さから、東証は売買注文が殺到することによるシステム障害を防ぐため、第一生命の上場初日の取引を13時に1度だけ売買を成立させる「一本値方式」を採用。1度限りで初値を決め、そのまま初日の取引を終了させた。

日本初の、生命保険相互会社から株式会社への転換。株式会社化は、第一生命の“第2の創業“といっても過言ではなく、現在の成長エンジンにつながっていくことになる。

◆ 第一生命ホールディングスの歩み(国内)

出来事
1902 第一生命保険相互会社(日本初の相互主義による保険会社)設立
1984 第一リースを設立
1986 第一生命カードサービスを設立
1988 第一生命情報サービスを設(1999年6月、第一生命情報システムに名称変更)
1988 ライフデザイン研究所(現第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部)を設立
1989 第一生命キャピタル(現ネオステラ・キャピタル)を設立
1996 第一ライフ損害保険を設立(2002年4月、安田火災海上保険と合併)
1997 第一生命経済研究所を設立
1998 第一生命ウェルライフサポート(現第一生命経済研究所を設立)
1998 第一ライフ投信投資顧問(第一生命投資顧問が名称変更)を通じて投資信託業務を開始
1998 日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループと包括業務提携)
1999 興銀フィナンシャルテクノロジーに出資(2002年4月、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに名称変更)
1999 興銀第一ライフ・アセットマネジメントを設立(現アセットマネジメントOne)
2000 安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)と包括業務提携
2000 アメリカンファミリー生命保険会社と業務提携
2000 ジャパンリアルエステイトアセットマネジメントを設立
2001 資産管理サービス信託銀行(現日本カストディ銀行)を設立
2001 企業年金ビジネスサービスを設立
2006 第一フロンティア生命保険を設立
2007 りそなホールディングスと業務提携
2010 株式会社化、東京証券取引所東証1部(現プライム市場)に上場
2014 損保ジャパン・ディー・アイ・ワイ生命保険(現ネオファースト生命保険)を完全子会社化
2016 持株会社体制の発足
2016 かんぽ生命保険と業務提携
2016 アセットマネジメントOneに名称変更(DIAMアセットマネジメントが、みずほ投信投資顧問、新光投信、みずほ信託銀行の資産運用部門と統合)
2019 第一生命リアルティアセットマネジメントを設立
2020 第一スマート少額短期保険を設立
2023 アイペットホールディングスを100%子会社化

安定成長見込める「海外事業」でのM&A

一般的に、海外の生命保険事業は北米などの先進国市場では経済成長などを通じた安定的な利益貢献が見込まれ、アジアなどの市場では高度経済成長に伴う保険商品の普及率の向上による中長期的な成長が見込まれる。そのため、第一生命では先進国市場と新興国市場の特色とバランスを保ちながら、「地域別・成長段階別に分散の効いた事業ポートフォリオの構築」を進めている。

相互会社から株式会社への転換により、その資金調達力を生かした、成長エンジンとしての「海外企業とのM&A」に弾みをつけた。

第一生命の海外戦略は、アジア・オセアニア市場では2007年に「第一生命ベトナム」を設立。既存の販売チャネルの拡充や銀行窓販の拡大などの取り組みで、ベトナムでの外資系生保の中では収入保険料ベースでトップクラスのシェアを獲得している。

翌2008年には、タイで「オーシャンライフ」を関連会社化、2009年にはインドで「スター・ユニオン・第一ライフ」の営業を開始した。また、オーストラリアの「TAL」は死亡保障や所得補償といった保障性商品に特化した戦略を推進。シェアをトップクラスにまで伸ばしているほか、19年2月にはアステロン・ライフ(旧サンコープライフ)を買収するなど、着実に実績を積んでいる。

注目は、2015年の米プロテクティブの買収。当時の日本の生命保険会社による海外M&Aとしては最大規模で、買収額は約5800億円にのぼった。その後の“成果”も特筆すべきもので、翌2016年にアセットプロテクション(損害保険)事業のUSWC社を買収。2019年には米グレートウェストの個人保険・年金既契約ブロックの買収を成功させるなど、いくつもの大型買収を実施して、積極的な事業規模の拡大を図っている。【下表参照】

◆ 株式会社化後の第一生命グループの海外事業の歩み

出来事
2011 オーストラリアで「タワー」(現TAL)を完全子会社化
2013 Janus Capital Group Inc./ジャナス社(現Janus Henderson Group plc/ジャナス・ヘンダーソン社)を関連会社化(なお、2021年にジャナス・ヘンダーソン社との出資提携契約を解消した)
2013 インドネシアで「PT パニン・ライフ」(現パニン・第一ライフ)を関連会社化
2015 米国「Protective Life Corporation(プロテクティブ)」を完全子会社化
2016 米Protective Life CorporationによるUnited States Warranty Corp.(USWC)買収
2018 カンボジア 「第一生命カンボジア」の設立
2019 米Protective Life Corporationがグレートウェストの個人保険・年金既契約ブロックを買収
2019 ミャンマー で「第一生命ミャンマー」を設立

注目される「非保険業」でのM&A

一方、国内市場は顧客の保険ニーズの高度化・多様化に対応した“本業”の強化を狙ったM&Aで、事業拡大を図っている。

2020年1月設立の第一スマート少額短期保険は、第一生命100%子会社の少額短期保険会社。ミレニアル世代や Z世代といわれる若年層向けに、第一生命とともに新しいデジタル完結型の保険ブランド「デジホ」を展開。「シンプルで、わかりやすく」安心して一歩ふみだせるように応援することをコンセプトにした。

また、2022年11月にはペット保険会社大手のアイペットホールディングス(HD)の買収を発表。翌23年1月、株式の公開買い付け(TOB)で全株式を取得した。アイペットHDは同3月1日をもって、上場廃止となった。

アイペットHDのアイペット損害保険は2021年度の収入保険料が276億6700万円で、同475億円のアニコム損害保険に次ぐ業界第2位。アイペットHDと第一生命HDは、2019年2月に業務提携を結び、関係を深めてきた。第一生命としては、犬や猫などの長寿化やペット医療技術の高度化、医療費の高騰化で引き続き高い成長が見込める。顧客の保険ニーズの多様化が進むなか、ペットをきっかけとした新規開拓のツールを充実させる思惑もあった。

第一生命が海外事業とともに注力する、もう一つの成長エンジンが「非保険業」だ。同社は、人々が幸福感や日々の生活の満足感を得るためには、「お金」「健康」「つながり」の3つの人生資産を、バランスよく充実させることが必要だと考え、従来の「保険(保障)」に加えて、「資産形成」、「健康増進」、「つながり・絆」の4つの価値の提供で、顧客の「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上」に貢献することを経営戦略に位置づけている。

M&Aはその“武器”として欠かせない。企業向けに福利厚生サービスを手掛ける株式会社ベネフィット・ワンの買収は、「非保険業の拡大」の“第1弾”。2024年3月12日、同社に対するTOBが成立。第一生命HDはベネフィット・ワン株の37.41%を所有するに至った。

今後、TOBに応じなかった少数株主から強制的に株式を買い取る(スクイーズアウト)とともに、ベネフィット・ワンの親会社であるパソナグループから保有分を譲り受け、完全子会社化。ベネフィット・ワンは5月中に上場廃止となる見通しだ。

第一生命は企業のベネフィット・ワンの買収で、非保険事業の拡大を図るとともに、生保関連事業の収益アップや付加サービスの拡大などで相乗効果を見込んでいる。

◆ 第一生命ホールディングスの業績ハイライト(単位:百万円)

保険料等収入 経常利益 総資産額
2012年3月期 3,539,579 225,920 33,468,670
2013年3月期 3,646,831 157,294 35,694,411
2014年3月期 4,353,229 304,750 37,705,176
2015年3月期 5,432,717 406,842 49,837,202
2016年3月期 5,586,000 418,166 49,924,922
2017年3月期 4,468,736 425,320 51,985,850
2018年3月期 4,884,579 471,994 53,603,028
2019年3月期 5,344,016 432,945 55,941,261
2020年3月期 4,885,407 218,380 60,011,999
2021年3月期 4,730,301 552,861 63,593,705
2022年3月期 5,291,973 590,897 65,881,161
2023年3月期 6,635,483 410,900 61,578,872

※ 2016年10月1日に持ち株会社体制に移行

第一生命HDは、「国内の伝統的な保障(生命保険)市場自体はマクロ環境の影響から考えても、今後の大きな伸びは期待できない」と認識している(2023年11月28日/2024年3月期第2四半期決算の経営説明会で)。

その方向性は、3月29日に発表された2026年度までの新中期経営計画でも受け継がれている。新中計で大きな伸びが期待されているのが、海外保険事業だ。海外利益が占める割合を目標40%(2026年度)に設定。修正利益は2022年度の764億円から2倍以上の1600億円を目標とし、既存事業でカバーできない300億円分の修正利益をM&Aで補っていくという。さらに2030年には海外保険事業だけで、修正利益を3000億円まで高める意欲的な数値を掲げていることから、2027年度からの次期中計でも海外M&Aは注目されそうだ。

新中計によると、第一生命HDは戦略投資として3年間の合計で3000億円を用意。この枠組みには、M&Aとともに非保険領域の拡大に向けた投資も含まれている。海外を中心とした本業の保険事業と非保険事業の“両輪”経営が続く。

文:髙橋べん(ライター)

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