ANAのEC向け新物流サービス
ANAとロジレス(東京都品川区)がタッグを組んで、2024年4月1日からeコマース(インターネットを介して行われる商品・サービス売買の総称。EC)向けの新物流サービスを開始した。ロジレスが提供するEC自動出荷システム「LOGILESS」とは、「受注管理システム(OMS)」「倉庫管理システム(WMS)」を統合し、受注業務・出荷業務・在庫管理を自動化するシステムだ。
そこに、ANAとの連携が加わり、注文を受けた商品を定期便に載せて運べるようになる。ANAとロジレスのプレスリリースでは、次のようなメリットが掲げられている。
・物流の2024年問題で翌日配送ができなくなった区間、主に関東地区発、岡山以西の中国・四国地方の翌日配送ができるようになる
・今まで翌日配送が難しかった九州地区全域(島しょ部を除く)の翌日配送ができるようになる
・ANAの定期便の日中の空きスペースの活用につながる
・多くのEC事業者、倉庫事業者がサービスを利用することで、コンテナの積載効率が向上し輸送単価が抑えられる
さまざまなメリットが掲げられているものの、目玉は航空機の活用による
「速達化」
にあるのだろう。当面は羽田発岡山行きの定期便のみでサービスを行い、岡山からはトラック輸送することのことだが、2024年秋をめどに全国に拡大する予定とのことである。
背景には低迷する国内貨物需要
今回の新サービスは、ANAにとって
「EC向け」
が鍵となる。というのも、背景に長年続いてきた国内線貨物輸送の低迷がある。ここで、ANAの月次輸送実績から同社の貨物輸送重量の推移をみてみよう。
・2010年度:国内線45.4(万t)、国際線55.7(万t)
・2020年度:国内線21.8(万t)、国際線65.5(万t)
・2022年度:国内線25.4(万t)、国際線80.6(万t)
このように、国内線と国際線の貨物輸送の好不調がはっきりしている。国際線は年を追うごとに拡大しているが、一方で
「国内線の低迷」
が顕著だ。2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響も手伝ってか、2010年度と比較して半減していた。2022年度は回復してきてはいるものの、以前の水準にはほど遠いのが実情だろう。また、重量ベースでの利用率は約20%にとどまるという。
「定期便の空きスペース」
を、いかに有効活用するかが課題であり、ECとのタッグは、願ったりではないだろうか。
ECの理由
定期便を活用した国内航空貨物の難しいところは、
・運べる荷物の制限
・ダイヤの制約
だろう。
航空機の場合、重量や大きさといった制限のほか、火薬類や可燃性物質など運べる荷物の制限がある。その点では、LOGILESSを活用することで、注文と同時に航空機で運べるもの、運べないものの選別が可能となるのは大きい。
また、日中の定期便で空きスペースが多いのは、社会活動との関連性が深い。宅配便であれば、日中に集荷して夕方・夜間便で送り、工業製品であれば日中に製造して夕方・夜間便で送るという流れとなっており、どうしても日中に長距離輸送の荷が少なくならざるを得ない。この点では、鉄道貨物輸送も同じであり、夕方以降の便に荷物が集中している。
そこで、昼間の時間帯の便を有効活用でき、かつ荷物のサイズなど、航空貨物の特性に合わせた荷物選びが可能となるEC向けに絞り込むのはありだろう。とはいえ、
「翌日配達にこだわる理由」
があるのだろうか。医薬品や何か特別なプレゼント、あるいは急に必要となったものなど、翌日に受け取りたい商品ももちろんあるだろう。しかし、翌日配達になると、定期便のダイヤが決まっている以上、発注の限度時刻もおのずと限られてくる。
LOGILESSと組み合わせることで、リードタイムが短縮でき、かつある程度ロットが確保できると思われるが、翌日配達にこだわるあまり、
「空きスペースの活用が限定的」
となる可能性がある。定期便の貨物スペースの利用率を上げるならば、配達日にこだわらないECの荷物を集めて、空きスペースに詰め込む方法もあるのではないだろうか。
物流2024年問題は追い風になる?
国内航空貨物輸送の新たなサービスは、ANAだけではない。ヤマト運輸は、3機の貨物専用機をリースして、2024年4月11日から自社専用の貨物機で国内貨物輸送を開始する。背景には「2024年問題」や「ドライバー不足」があり、安定した長距離輸送の確保を目的としているという。
なお、運航にあたっては、A321ceo P2F型機を3機使用し、JALのグループ会社のスプリング・ジャパンに委託。東京(成田・羽田)〜北九州、札幌をはじめとした4路線で、1日あたり計21便を計画している。物流2024年問題、ドライバー不足を背景に、ANAとJAL双方で国内航空貨物の活性化が始まるのは、象徴的な出来事ともいえよう。
国土交通省の資料によると、2021年における1001km以上の国内貨物輸送のシェアは、
・船舶:65.8%
・トラック:23.0%
・鉄道:10.5%
・航空機:0.6%
と、航空機のシェアは
「0.6%」
しかない。輸送距離が700km以下となると途端にトラック輸送の独壇場となるため、やはり航空貨物の活路は
「700km以上」
とならざるを得ない。そういう意味では、今回ANAが開始する岡山は東京からだと約650kmであり、長距離輸送メリットを生かせる“絶妙な距離”といえる。
なにはともあれ、現状で0.6%しかシェアがないことをポジティブに捉えるなら、伸び代しかないということだ。ANA+ロジレスの定期便の空きスペース活用にしろ、JAL+ヤマト運輸の貨物専用機にしろ、今後どこまで活用が広がるのか楽しみなところだ。