堅調な市場成長、業界の主要プレーヤー
クルマを購入する際、商談の過程で塗装面を保護するいわゆるボディコーティングを勧められたことがある人は多いだろう。今やボディコーティングは、新車でも中古車でもおなじみの営業ツールだ。
最近の同業界の市場規模を見てみよう。フォーチュン・ビジネス・インサイトのリポートによると、2021年のグローバル市場規模はおよそ200億2000万ドル(約4兆円)になるという(2029年は418億7000万ドル予想)。2019年から2020年にかけてはCOVID-19の大はやりにより若干減少したものの、2022年からは回復傾向にあり、今後も増加が続くと予想されている。つまり、ボディコーティング市場は世界規模で堅調なのである。
ボディコーティングのビジネスには特徴がある。その多くは、いわゆるフランチャイズという形態をとっている。事業を統括する本部がコーティング剤などの材料を供給し、マニュアルを作成し、作業員を教育し、技能レベルを認定する。
1980年代から続くカービューティープロ(東京都世田谷区)などの老舗に加え、近年はキーパー技研(愛知県大府市)の躍進が目覚ましい。また、フランチャイズに頼らない独立系の店舗も多い。
現在、カービューティープロの店舗総数は約500店、キーパー技研の契約業者数は約6000社ともいわれ、まさに群雄割拠の業界である。
賛否両論のネット評価
さらに、ボディコーティングの問題は、その効果に対するユーザーの評価が肯定的なものとそうでないものに大きくわかれるという指摘もある。
つまり、「やってよかった」「費用に見合った効果があった」といった高い評価がある一方で、「思ったほど効果がなかった」「価格に見合わなかった」といった低い評価が、インターネット上の口コミを中心に頻繁に見られる。なぜこのような評価の違いが生まれるのだろうか。
前述したように、ボディコーティングはクルマのメンテナンスの一種であり、その作業は徹底的にマニュアル化されている。つまり、品質に差は出にくいというのが通説である。しかし、現実はそうではない。そこにボディコーティングの難しさがある。
ボディコーティングの評価に差が出る理由はいくつかある。まず、提供されるコーティングメニューについて、
・業者側の説明不足
・ユーザー側の理解不足/誤解
が考えられる。
一口にボディコーティングといっても、その用途は多岐にわたり、施工後の特性や取り扱いなども異なる。
「ボディコーティング = 美しい光沢や優れた耐久性」
というわけではない。光沢も耐久性も、使用するコーティング剤や作業方法によって異なる。特に「○年間メンテナンス不要」といった宣伝文句は誤解を招く。
「輝きが持続する」といった宣伝文句に対するユーザーの印象は個人差があり、仕上がりのイメージと実際の効果が異なる場合、否定的な意見が出やすいのだ。
ボディコーティング選びのポイント
次に考えられるのは、施工者の技術力の差によるものである。前述したように、ボディコーティングは厳密にマニュアル化されているものの、作業するクルマの塗装状態は1台1台微妙に異なる。
新車の場合、もともとの状態の違いによる差は生じにくいが、経年劣化した塗装面の場合、塗装の状態を見極め、それに応じた下地処理を行うことが何よりも重要である。この部分は作業を行う人の経験に左右される。
では、一般ユーザーがボディコーティングを選ぶ際、失敗しないためには何に注意すればいいのだろうか。
まずは、選択するメニュー内容を把握することが大切だ。ボディコーティングの価格は、安価なポリマーコーティングで2万円以下のものから、高価なガラスコーティングで10万円を超えるものまである。当然、作業内容も得られる効果も異なるので、自分にとってどれが必要なのか、また価格差の理由を理解することも重要だ。
施工を依頼する前に、実際に施工したボディの状態を確認することが望ましいだろう。例えば、撥水(はっすい)性やつやはこの時点である程度確認できるし、作業者の技術レベルも確認できる。
また、コーティング施工後の日常メンテナンスについても、きちんと説明を受けることが大切だ。ボディコーティングの「○年間メンテナンス不要」というものは、施工したコーティングにそれだけの耐久性があるということであって、日常のメンテナンスが不要という意味ではない。
コーティングは皮膜であるため、常に表面を清潔に保つことが重要であり、汚れが付着した場合は軽く水洗いした後、丁寧に水分を拭き取るなどのメンテナンスが必要である。
新車価格上昇とボディコーティング選択
また、駐車場という環境であっても、屋外に駐車するよりはボディカバーを使用した方が、結果的にコーティングの寿命を延ばすことができる。もちろん、何らかの屋根のあるカーポートや建物内のガレージを利用した方がさらによい。
耐久性はあくまで目安であり、その効果は日頃のメンテナンスと保管次第であることを理解しておきたい。
市場のアナリストの多くは、最近の新車価格の上昇を踏まえて、ユーザーが愛車のリセールバリュー(再販価値)を維持する目的でボディコーティングを選択するケースが増えると予想している。
しかし既述したとおり、その効果に差が生じた場合、結果的にリセールバリューに影響を及ぼさないとも限らない。しっかり学習し、賢い選択をしたいものである。