防衛省は6月、海上自衛隊鹿屋航空基地(鹿児島県鹿屋市)で大型無人機シーガーディアン(MQ9B)の試験運用を始めた。背景には東シナ海や太平洋で活動を広げる中国の存在がある。任務の一部が有人機から無人機に置き換わることで不測の事態は起きないのか。識者は「事故を武力衝突に発展させない対話が不可欠だ」と話す。

 海自は天候不良を理由に、八戸航空基地(青森)から鹿屋基地への飛来を3度延期した。

 MQ9Bは横風に弱いとされる。鹿屋で群司令を務めた後、沖縄、青森で部隊を率いた元海将補の中村敏弘さん(58)=神奈川県=は「有人機なら飛行できる天候だろう。潜水艦への対応など有人機の方が優れている面もある」と指摘。「日本周辺を隙間なく警戒監視することが抑止力となる。安全保障環境は戦後最も厳しく、無人機と有人機を複合的に活用するべきだ」と訴える。

■過去10年で最多

 防衛省によると、中国海警局などの船舶による沖縄県・尖閣諸島周辺への領海侵入は11年度の1日から23年度は42日(前年度比5日増)に増えた。23年は周辺の接続水域で352日、延べ1282隻確認され、過去10年で最多だった。

 鹿児島県内では16年6月、情報収集艦が屋久島町口永良部島付近の日本領海に進入。20、21年には奄美大島周辺の接続水域で中国国籍とみられる潜水艦が確認された。24年6月には中国軍の偵察・攻撃型無人機が奄美大島沖を飛行した。

 中国は南西諸島を越えて太平洋に進出する動きを強める。拓殖大の佐藤丙午教授(安全保障論)は「東シナ海だけでなく小笠原諸島と日本列島の間を警戒監視する必要性が高まっている。鹿屋基地は扇の要に位置する」と話す。

■体温のない空域

 無人機の導入で、錯誤や不測の事態が起きる恐れもある。23年、黒海上空でロシア軍戦闘機が米軍無人偵察機MQ9に衝突した。米軍の映像には、戦闘機が燃料を無人機に浴びせかけ、別の1機が同じことをしようとして無人機に衝突した場面が映っていた。

 有人機の場合、上空で他国の機体と遭遇すると操縦士が手でサインを送ったり、翼を振ったりしてコミュニケーションを図ることがあるという。

 佐藤教授は「無人機同士だと空域に体温がなくなる。対峙(たいじ)したときに互いの空域の管理や情報を伝える方法を事前に決めておくべきだ。相手の意図を理解する姿勢と対話が必要」と話す。鹿屋基地に所属していた元自衛官は「人命救助や想定外の判断に対応できるのは、訓練を受けた隊員が乗る有人機だ」と言い切る。

 14日に鹿屋基地であったMQ9Bの報道公開では、翼に兵器を搭載した機体の映像が流れた。

 軍事評論家の前田哲男さん(85)は、攻撃型の拠点となれば有事の際に攻撃対象となるリスクは高まるとして「(本格導入前に)鹿屋の無人機は攻撃に使わないとの確約を国から得るべきで、地元首長や議会が果たす役割は大きい」と話した。