ドキュメンタリー映画「NOTO NOT ALONE」の上映と「旅する料理人」三上奈緒さんのトークイベントが5月23日、中川文化センター(中川村片桐)で開催され、昼・夜の部を合わせて伊那谷全域から50人以上が足を運んだ。(伊那経済新聞)

 夜の部に訪れた来場者全員で記念撮影

 1月1日に石川県の能登半島で起きたマグニチュード7.6の地震は甚大な被害をもたらした。復旧がままならない状況の中、能登半島先端に位置する珠洲市の石川県立飯田高校では2月27日から午後の授業を再開することになったが、深刻な被害の状況下で昼食の弁当を用意することができなかったという。それを知った三上さんがボランティアとして名乗りを上げ、能登で10日間にわたり、およそ170人分の昼食を仲間たちと提供。その様子を映像作家の小川紗良さんが、3月18日・19日の2日間にわたり密着取材し、ドキュメンタリー作品として同作を完成させた。

 提供した昼食に使われた食材の多くは伊那谷地域から集まった。能登で使う食材をどう集めるか苦戦する中、中川村で有機給食の実現のために村議会議員として奔走し、自らも農薬や化学肥料に頼らない農家として夫と農園を経営する大島歩さんが思い浮かび、食材の手配を依頼した。「おなかを満たせば何でもいいわけではない。後世に引き継ぐべき文化として食を大切に捉える姿勢や、同じ価値観を持つ大島さんなら、という思いがあった」と三上さん。三上さんに声をかけられた大島さんは、すぐにSNSで食材の提供を呼びかけ、情報を見た仲間の拡散などの協力もあり必要となる食材が集まった。さらに調理現場ですぐに使え、かつ、ごみを出さないようにと、野菜の皮をむくなどの下処理も行い能登に運んだという。

 野菜の調達や運搬・箱詰めなどを手伝った箕輪町の中野友美さんは「野菜や卵、調味料など質の良い食材が多く集まり、伊那谷の食文化の高さに驚いた」と振り返る。

 三上さんは「大島さんを起点に輪が広がり、たくさんの食材が集まった。伊那谷のチーム力には驚かされた。普段からコミュニティーが形成され、皆がつながっているからこそ達成できたのだと感謝。このようなつながりが本当の意味での防災であり、災害発生時の際に命綱になる」と話す。「能登の現場は、便利で快適にと進化した現代の暮らしが被災して機能しない中、昔ながらのくみ取り式便所や井戸が人々の役に立っていた。意外にも文明の利器は脆弱(ぜいじゃく)だった。被災した際に防災機能を果たすはずの給食センターを調理のために使わせてもらえず不便だったこと、全体的にボランティアに依存しきりの行政の対応にも疑問を覚えた」と窮状を伝えた。

 最後に「メディアが報道している情報にはまだ伝えきれていない情報があると感じた。現場に足を運んでこそ何が求められているのか分かるので、ぜひ一度足を運んでみてほしい。地震の多い日本に暮らす未来の自分にきっと役立つはず。共存共栄という意識が大切だと分かる」と伝えた。