もりおか歴史文化館(盛岡市内丸)で現在、テーマ展「若様に、鯉(こい)を −堀江尚志作『鯉魚置物(りぎょおきもの)』とその周辺−」が開催されている。(盛岡経済新聞)

 同展のメイン展示物はコイをかたどったブロンズ製の作品「鯉魚置物」。1932(昭和7)年2月2日に、当時の南部伯爵家当主・南部利英の長男・利久が誕生したことを祝って南部家へ贈られたという。3人の岩手県出身作家が制作を手がけ、原型を彫刻家の堀江尚志、鋳造は鋳金家の内藤春治、作品を設置するための台座を工芸家の安倍郁二が担当している。

 5月のこどもの日に合わせてコイがモチーフの同作品をテーマに選んだ。同館の展示資料は江戸時代のものが中心のため、同作品を含めた近代の資料を公開する機会は限られている。同作品も2012(平成24)年以来、12年ぶりの展示だという。

 担当学芸員の福島茜さんは「原型を作った堀江尚志は優れた彫刻家として期待されていたが、若くして亡くなっているので作品が少ない。そのうちの一つが歴史文化館にあることも知ってもらいたい。子どもの誕生を祝う思いが込められた今の季節にぴったりの作品でもある」と話す。

 展示では「鯉魚置物」が作られた背景を当時の記録と共に紹介。併せて、コイについて記された江戸時代の刊行物から、コイの存在や意味について解説する。展示室中央にガラスケースに入れた「鯉魚置物」を設置し、なるべく作品の全体が見える形にした。

 展示資料の一つである南部家の日誌「御用留」には、利久が誕生して間もなく、旧南部領出身者による組織「南部同郷会」の会員らが南部家を訪れ、誕生を祝う献上品について相談したと記録されている。その後、4月9日に内藤春治が完成した作品を南部家に届け、30日に南部同郷会の会員が集まり、改めて祝いの品として献上されたという。

 江戸時代の刊行物「大和本草」には、「川や海にいる魚の中でコイは最も貴い魚だ」といった内容が記されている。「理由は定かではないが、コイは特別な魚として扱われていた」と福島さん。「コイの存在や意味を併せて考えると、誕生祝いの品としてコイがモチーフになったことにも必然性を感じる。子どもの誕生を祝い、健やかな成長を願うのはいつの時代も変わらない。多くの人が南部家の若様の誕生をお祝いしたかった盛り上がりも感じてもらえれば」と呼びかける。
 開館時間は9時〜19時(入場受け付けは18時30分まで)。観覧料は一般=300円、高校生=200円、小中学生=100円。盛岡市内在住・就学の小中学生、市内在住の65歳以上は無料。7月15日まで。