長崎県美術館(長崎市出島町)と三重県立美術館(三重県津市)のスペイン芸術作品にフォーカスした初の共同企画展「長崎県美術館・三重県立美術館コレクション 果てなきスペイン美術―拓(ひら)かれる表現の地平」が5月22日、長崎県美術館で始まった。(長崎経済新聞)

 内覧会での稲葉さんによる作品解説の様子

 長崎県美術館は第2次世界大戦期にスペイン・マドリードに特命全権公使として駐在した須磨弥吉郎が現地で収集した、いわゆる「須磨コレクション」を中心に中世から現代まで1000点を超えるスペイン美術作品を収蔵してきた。三重県立美術館は1992(平成4)年に締結したスペイン・バレンシア州との姉妹提携をきっかけに、バルトロメ・エステバン・ムリーリョやフランシスコ・デ・ゴヤらの油彩画作品を筆頭とするスペイン美術の作品群を形成してきた経緯がある。

 企画展は国内屈指のスペイン美術収集と展示を標ぼうする美術館として知られてきた両館それぞれに特色あるコレクションの中から補完的に約100点を選び、日本国内ではあまり浸透していないスペイン美術の特徴を5つのテーマに沿って紹介。パブロ・ピカソやサルバドール・ダリなど世界的に活躍した作家も数多く輩出したスペイン美術の魅力に迫りつつ、その精華を伝えることを目指すという。

 第1章の「宗教−神秘なるものへの志向」では、ユダヤ教やイスラム教、キリスト教など複数の宗教が共存したスペインにおいて宗教が芸術文化と強く結びついていることに着目。中世以降、イスラム教支配地域を徐々に取り戻し、16世紀後半には世界各地に領土を持つ「太陽の沈まぬ帝国」と呼ばれる大帝国として栄華を極めたスペインのキリスト教や芸術文化の根底にある精神的なまなざしを探る作品を並べる。

 第2章では第1章と対比的に「現実なるものへの視線」をテーマに、19世紀末以降のスペイン芸術家が現実に向き合い残してきた作品を紹介。第3章ではチリーダの版画作品や現代スペイン作家が手がけた彫刻作品など「場の空間」にフォーカスし、空間に対する感受性を探る。

 第4章では「光と影」をテーマにスペイン帝国の栄華と衰退などに目を向け、そこにある光と影のごとき両面性に着目。芸術世界においても社会の明と暗に対峙(たいじ)する中で光と影をテーマに模索した芸術家にスポットを当てる。第5章では美学と芸術表現を追求してきた芸術家にスポットを当て、伝統的な題材の表現と素材や技法に着目しながら、近世から現代におけるスペイン美術史の「伝統と革新」をテーマに、スペイン芸術のこれからの歩みが垣間見られるようにする。

 21日に行われた内覧会では学芸員の稲葉友汰さんが作品解説を行った。冒頭、スペイン国旗に描かれているシンボルマークに記されたラテン語に触れた稲葉さんは「直訳すると『さらに遠くへ』『果てしなく先へ』と記された文言はスペイン美術にも言えることでは」と紹介。同館所蔵のパブロ・ピカソの「鳩(はと)のある静物」にも触れた稲葉さんは「キュービスムの手法で描かれているのは平和の象徴であるハトが死んで羽を広げた姿。ナチス占領下のパリで描かれたこの作品が生まれたのは戦争真っただ中の時代背景を反映している」など、テーマごとに特徴ある作品や見どころを解説した。

 25日には「三重県立美術館とスペイン美術」をテーマに特別講演を行う。26日、6月9日、30日には学芸員によるギャラリートークを開催。6月15日には長崎OMURA室内合奏団によるコンサートも予定する。会期中、館内にあるカフェでスペイン発祥の伝統菓子「ポルボロン」も提供する。

 開館時間は10時〜20時。観覧料は、一般=1,200円、大学生・70歳以上=1,000円、高校生以下無料。7月7日まで(5月27日・6月10日、24日は休館)。