忙しい朝、煩わしいのが「どの服を着るか」を考えることである。アレも違う、これも違う、これは昨日とかぶる……などなど右往左往しているうちに家を出る時間が近付いてくる。さらに、少しでも冒険をしてしまうとセンスが悪いと思われないかが気になる。そうしたことを回避するために「同じ服しか着ない」という選択をしているのが、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏(50)だ。基本的に年間3種類の服装パターンしかないという中川氏が、その利点を述べる。

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 もう20年ぐらいこのパターンは続けていますが、まぁ〜、なんともラクです。私が服のバリエーションを変える基準は一つしかなくて、それは「気温」です。こんな感じです。

【涼しい〜寒い】黒いジャケット・襟付きの白いシャツ・黒いジーンズ・黒い靴(11月〜4月)
【暑い】Tシャツ・短パン・サンダル(5月下旬〜10月中旬)
【その中間】襟付きの白いシャツ・黒いジーンズ・黒い靴(5月上旬〜中旬・10月下旬)

 一応天気予報を見て3つの基準のどれに当てはまるかは考えますが、とにかくコレだけ考えればいいのはラク過ぎます。襟付きの白いシャツはユニクロの形状記憶のものが6枚ありますので、常にパリッとしている。ジャケットと黒ジーンズはスーツっぽくも見えるので、ビジネスの席でも問題はない。しかも、この恰好で釣りまでしてしまう。

 夏のTシャツ・短パン・サンダルも私の属する出版・IT業界では時々いる恰好なので、どこかの会社を訪問した時も咎められたことはありません。別にスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスに憧れているわけではなく、単に気温に合った格好を考えたらコレが一番快適であることに気づいたのです。

 それにしても、毎日服を変える人ってよくできますよね。選ぶ時間も必要だし、「このボトムスにこのトップスは合うかな」とか「ちょっと若作りし過ぎかな」「ちょっとこれだと寒いかな」「3日前と同じ服を着てると思われないかな」なんて悩みます。さらには「誰かと服がかぶったらどうしよう」なんて思ってしまうことでしょう。

 あと、単純にカネがかかりますよね。ファッション業界や女性誌が「今年の人気はラベンダーカラー」とか「今はチュニックが人気」とか、手を変え品を変え新しい服を買わせようとしますが、そんなのに乗っかっていたらすぐにタンスが満杯になってしまいますし、「この服は流行遅れだからメルカリで売ってしまおう」なんてことになる。

出勤前に洋服で悩むのは楽しいことなのか?

 いや、数回着ただけで飽きて売るんだったら買わないでいいじゃん、なんて思うのですが、それはそれで楽しいのかも。そう思って、日々洋服選びに困っている人にこう聞いてみました。

「出勤前に洋服で悩むのってのは楽しいことなんですか?」

 するとこう来る。

「面倒くさいに決まってますよ! 本当はやりたくないです」

「じゃあオレみたいに服を決めちゃえばいいですよ。毎日同じ服を着ていたら『あぁ、コレがこの人の制服みたいなものなのね』と周囲は思ってくれますよ」

「それはあなただからできるんですよ! あまりに無頓着過ぎる」

 とはいっても、服装で損をしたことはないし、年間の被服費も新しいシャツを買う程度のため、6000円ぐらいでしょうか。時間とお金、両方の節約になるのに加え、「自分は自分」という気持ちを確立できて、セルフブランディングにもなるので、案外「同じ服を着続ける」って良い生活習慣だと思うんですけどね。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。