『エヴァの告白』(13)や『アド・アストラ』(19)のジェームズ・グレイ監督が、自身の少年時代をベースに描いた『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(公開中)。本作で主人公の母親エスターを演じたのは、日本でも大人気のオスカー女優、アン・ハサウェイ。昨年11月に40歳を迎え、さらに実力と美貌に磨きのかかるハサウェイの最新作の公開にあわせ、彼女の女優人生の転換期となった代表作を一気に紹介していこう。

■映画初出演にして初主演!シリーズ化もされた王道シンデレラストーリー

18歳で映画デビューを飾ったハサウェイの記念すべき初出演作は、名作『プリティ・ウーマン』(90)を手掛けたゲイリー・マーシャル監督の『プリティ・プリンセス』(01)。同作でハサウェイは、美しく大変身を遂げる主人公の高校生ミアを演じ、デビュー作にして主演を飾った。

イケてない高校生のミアは、ある日突然欧州にある小国の唯一の王位継承者であるという驚きの真実を知らされ、“プリンセス”になるためのレッスンを受ける羽目になる。はじめは渋々だったミアは、やがて見違えるほど美しく素敵な女性へと磨かれていき、恋や友情、プリンセスとしての責任の間で揺れ動いていくことになる。

続編の『プリティ・プリンセス2/ロイヤル・ウェディング』(04)も公開され大ヒットを記録。その後シリーズ3作目の企画が浮上するも、マーシャル監督の死去を受けて一旦白紙になり、昨年ふたたび続編の開発が進行中であることが報じられた。ハサウェイがプリンセスとしてカムバックするのかどうか、続報に注目だ。

■一躍トップスターにのぼり詰めたのは、大人気のあの映画!

「プリティ・プリンセス」シリーズ後は、インディペンデント映画への出演やアニメ作品での声優挑戦など、なかなか作品に恵まれない時期が続いていたハサウェイ。それでもアカデミー賞で注目を集めたアン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(05)で演技力の高さを証明した彼女は翌年、キャリアを決定付ける代表作を手にすることとなる。

それは大女優メリル・ストリープと共演した『プラダを着た悪魔』(06)。ニューヨークに出てきたジャーナリスト志望のアンディが、一流ファッション誌の編集部にアシスタントとして就職。鬼のような編集長のミランダにしごかれ、奮闘しながら、本当に大事なことはなにかを見つけていく。成長と共におしゃれに変化していくファッションと、洗練されたスタイリングも話題を集め、日本でも大ヒットを記録。いまでも根強い人気を誇る作品で、これでハサウェイを知った人も少なくないだろう。

■名実ともにトップスターへ!ミュージカルの金字塔でオスカーを受賞

『プラダを着た悪魔』でのブレイク以後も、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』(12)のような大ヒット作から、『ゲット・スマート』(08)や『ブライダル・ウォーズ』(09)、『ラブ&ドラッグ』(10)といった良質なコメディ、そして『レイチェルの結婚』(08)まで、多彩な顔を見せてきたハサウェイ。

充実した20代のキャリアの集大成ともいえるのが、ヴィクトル・ユゴーの小説を基にした大ヒットミュージカルを、『英国王のスピーチ』(10)のトム・フーパー監督が映画化した『レ・ミゼラブル』(12)。そこでハサウェイは、不遇の女性フォンテーヌを演じるために11キロの減量に挑み、長い髪をばっさり丸刈りに。撮影当時、結婚式を目前に控えていたハサウェイの女優魂ともいえる決断は大きな話題を集めた。

同作で第85回アカデミー賞助演女優賞を受賞するなど、その年のあらゆる映画賞を総なめに。オスカー女優という称号と共に、30代のキャリアはさらに充実の一途を辿ることとなった。クリストファー・ノーラン監督の作品に立て続けに出演したり、名優ロバート・デ・ニーロと共演した『マイ・インターン』(15)や、サンドラ・ブロックら人気女優たちと共演した『オーシャンズ8』(18)なども大好評。まさに名実ともにスターとしての不動の地位を築きあげた。

■“プリンセス”から20年…教育熱心な母親役で新境地を開拓

そして、40代になってから最初の日本公開作となる最新作『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』では、これまでの華やかでスタイリッシュな雰囲気を封印。息子を愛するが故に歪んだ方向へと愛情を注いでしまう母親エスター役を静かに熱演している。

物語の舞台は1980年代のニューヨーク。ユダヤ系アメリカ人の中流家庭の末っ子で12歳のポールは、クラス一の問題児である黒人生徒ジョニーと親しくなったことがきっかけで、複雑な社会情勢が突きつける逆境を知ることとなる。ふたりが学校でやらかした些細な悪さが、彼らの平穏な青春の日々に大きな波乱をもたらす。ポールには頼れる家族がいたが、家庭環境に恵まれないジョニーには支えてくれる大人がおらず、それが2人の行く末を大きく分けることに。

PTA会長で教育熱心な母親という、これまでのイメージとは違うタイプの役柄を演じたハサウェイは、「私はエスターのなかに、とてつもない情熱と集中力、決意、弱さ、悲しみ、そして愛を見ました」とも語っている。ハサウェイの演技にも注目しながら、このエモーショナルな物語を劇場でじっくりと味わってほしい。

文/久保田 和馬