藤井道人監督による初の国際プロジェクトに、アジア圏でいま最も注目されている台湾俳優、シュー・グァンハンと日本の若手実力派女優、清原果耶を主演に迎え、台湾で話題を呼んだ紀行エッセイを映画化した『青春18×2 君へと続く道』(公開中)。台湾と日本、18年前と現在を舞台に、”初恋の記憶”を巡るラブストーリーを紡いでいく。

始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生のジミー(グァンハン)は、日本から来たバックパッカーのアミ(清原)と出会い、時間を共に過ごすうちに、恋心を抱いていく。しかし、突然アミが帰国することに…。時が経ち、人生につまずいた36歳のジミーは故郷に戻り、かつてアミから届いた絵ハガキを手に取る。そして、昔アミと交わした約束を果たすために、日本への旅に出る。

今年台湾で公開された台湾映画(合作含む)では興行収入No.1を記録しており、先駆けて公開された香港、マカオ、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナムでも話題を呼んでいる。なぜ、アジア各国・各地の観客の心を惹きつけたのか?本稿では、その理由を「藤井監督作品としての作家性」「恋愛映画としての醍醐味」「アジアスター、シュー・グァンハンの魅力」という3つの切り口から、クロスレビューでひも解いていく。

■「素直さ」が内にこもったものにならず、リアルな感情へと変換されて観る者の「共感」を底上げする…藤井監督作の道をたどる(物書き・SYO)

『余命10年』(22)や『パレード』(Netflixにて独占配信中)、『新聞記者』(19)に『ヤクザと家族 The Family』(21)、『ヴィレッジ』(23)とハイペースで見ごたえある作品を世に放ち続ける藤井道人監督。20代から台湾に留学して自らを売り込んでいたという彼の宿願が成就した、初の国際共同プロジェクトとなる日台合作映画が『青春18×2 君へと続く道』だ。藤井監督の祖父が台湾出身であり、本作の舞台をゆかりのある台南に変更。さらに主人公ジミーと同じく36歳で撮影した作品となっており、藤井監督自身も本作を「監督人生第2章の始まり」と位置付けている。

そういった意味では自己投影を意識的に行っている私的な要素も含んだ作品といえるが、こうしたある種の「素直さ」が内にこもったものにならず、リアルな感情へと変換されて観る者の「共感」を底上げする点に、彼の真骨頂があるだろう。つまり、“個”や“私”の内面を純粋に突き詰めることが逆説的に他者の心を代弁し、映画というメディアに乗って広がってゆき、普遍性を纏った「誰もに響く」物語へと進化していくのだ。藤井道人の作品は総じてエモーション(感情)に定評があるが、盟友・横浜流星とのはじまりのタッグ作『青の帰り道』(18)や本作でヒロインを託された清原果耶との『デイアンドナイト』(19)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)等々、さらに言えばインディーズ時代から藤井は「押し込めた感情があふれ出る」さまを映し取ってきた。彼の代名詞である「映像美」も、ただ綺麗な映像が連続するだけではなくそこに登場人物の感情が乗る/観客の感情を動かすトリガーとなるからこそ、記憶に残るのだ。

そうした藤井作品ならではの“感情の波形”が、近年はより大きくなってきた印象を受ける。その1本が死者と生者の想いを見つめる『パレード』であり、18年前の台湾と現代の日本という2つの時代・場所を描く本作『青春18×2』なのだ。キラキラと輝いていた甘ずっぱい青春の日々と、人生に立ち止まってしまった曇天のいまと…。ただここも「感情」を第一に考える藤井監督らしく、「過去を美しく、いまを仄暗く」といった風に補正をかけることなく、その瞬間の生きた感情を映像演出に直結させている。無邪気だった当時も哀しみがあり、苦悩する現在も喜びを感じる瞬間がある。そうしたリアリティに根差した心情描写が、ジミーが鈍行列車の旅を経て己の感情を取り戻していく物語とリンクしていく構成もうまい。ただ、こうした特徴も本作で初挑戦というわけではなく、『ヤクザと家族 The Family』は3つの時代の描き分けを行い、『MIRRORLIAR FILMS Season 4』(22)の『名もなき一篇・東京モラトリアム』では現在と過去のギャップを短編の尺で魅せきり、『DIVOC-12』(21)の『名もなき一篇・アンナ』では言語を超えた愛を紡いでいる。藤井道人監督のフィルモグラフィ自体が、『青春18×2』へと続く道なのだ。ぜひ、本作とあわせて過去作品も“再見”していただきたい。

■甘酸っぱい初恋という言葉だけでは言い表せない…若者も大人も楽しめる恋愛物語(イラストレーター・チヤキ)

“青春”とタイトルにあったので甘い10代のためのラブストーリーかと思っていましたが、これは青春を経験してその後、仕事、社会人の恋愛と経験した30代のためのラブストーリーでもあると思いました。

アミとジミーだけでなく劇中の様々な出会いがすごく印象的で、台湾が舞台ということもあり全体的に暖かそうな夏休みのような雰囲気をずっと感じながら観ていました。イラストをオレンジメインに描いたのはその辺のイメージからかもしれません。夜市やスクーター2人乗りという台湾を存分に感じられるシーンもあり、本当にアミのように旅行に行きたくなります。対照的に日本パートのシーンは雪景色なのですがここでも出会う人々はここでも温かい。

映画のなかで現在のジミーは18年前のひと夏の記憶をたどっているのですが、18年も経っているのに思い出のなかの恋ではなく現在進行形で気持ちが続いているというのが伝わってきて、心がきゅっとします。両想いだったわけでもなくどちらかというと脈はなかったような(少なくとも私はそう感じた)相手に。これが尊いということなのでしょうか、そこまで思える相手に出会うということはそうそうないと思うので。

甘酸っぱい初恋という言葉だけでは言い表せないので、ぜひ映画を観て感じ取ってほしいです。ちなみに、36歳という数字だけ聞くともうすっかり大人に感じますがアミの故郷へ行く目的の中で、好きな漫画「スラムダンク」の聖地にも行ってる感じがいまのリアルな若さを残した30代という感じがして私の好きなシーンです。

■ナチュラルかつ魅力的に演じてみせた彼の俳優としての手腕に、驚かされずにいられなかった…シュー・グァンハンの演技力に注目(映画ライター・渡邊玲子)

幸運にも、筆者は本作で初めて、シュー・グァンハンの存在を知ることができた1人だが、人生につまずき、愁いのある顔を浮かべながらも、行く先々で心優しい人と束の間触れ合い、青春時代にサヨナラを告げる旅をする36歳のジミーと、バイト先のカラオケ店で、4つ年上の日本人女性アミに恋をし、忘れられないひと夏を送る18歳のジミーを、ここまでナチュラルかつ魅力的に演じてみせた彼の俳優としての手腕に、驚かされずにいられなかった。しかも、スケジュールの都合により、グァンハンにとっては“アウェイ”となる日本パートから撮影が開始されたにもかかわらず、膨大な日本語のセリフにのせて繊細な感情の動きを伴う芝居を、日本の俳優たちと交わすという、そんな難関さえも見事にクリアしているのだ。

映画のなかのジミーは、ヘアスタイルや服装も相まって、一見したらどこにでもいそうな等身大の青年のようにも映る。だが、それはあくまで彼がカメラの前でジミーという役柄を演じているからであって、先日、本作のプロモーションで来日したシュー・グァンハン自身から放たれるオーラは、紛れもなく“アジアのトップスターそのもの”と言えるものだった。そしてそのオーラは、いまをときめく人気アイドルが放つまばゆいほどの煌めきとは少し趣を異にするものであり、33歳という、グァンハンの実年齢よりもさらに落ち着きを感じさせる優雅で品のある佇まいと、彼自身の人としての懐の深さがもたらしていたようにも思う。

役をまとわず、“シュー・グァンハン”としてカメラマンの前に立ち、取材に応じる過程で浮き彫りになるのは、本人の人柄や人間性だ。ごくわずかな撮影時間のなかで、カメラマンが求めることを即座に理解して体現してみせる柔軟性と、自ら自由に動き始めた途端に立ち上ってきた色香に、アジア圏のスターとして君臨するグァンハンの真髄を見た気がした。

18歳のバックパッカー・幸次を演じた道枝駿佑とは、劇中同様、飯山線駅のホームで見送られて以来、1年ぶりの再会となったが、撮影時の苦労話を振り返るうちに時間が巻き戻り、互いの見た目こそ異なるものの、映画の続きのような温かい空気がその場を包み込んだ。ちなみに、取材中、机の上に置かれた記者たちの何台ものICレコーダーを、グァンハンみずからそっと掴んで動かし、道枝の発言が録音しやすいように、彼のほうに近づけてくれたことも、ここに書き添えておく。そんなさりげない心遣いのできるスターは、なかなかいない。

構成/編集部