『余命10年』(22)の藤井道人監督の初の国際プロジェクト、日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』が公開中。本作は、台湾で話題を呼んだジミー・ライの紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」を原作に、日本と台湾、18年前と現在を舞台に紡がれるせつなくも美しいラブストーリーでありながら、人生につまずいた36歳の台湾人青年ジミーが、4つ年上の日本人で初恋相手のアミが生まれ育った国へのひとり旅を通じ、これまでたどってきた道を見つめ直す青春ロードムービーでもある。

東京から湘南・鎌倉、長野・松本を経て、新潟・長岡、福島へ…。その道中で、個性豊かで心優しい人々と、決して忘れられない“一期一会”を繰り返し、旅の目的地でもあるアミの故郷・福島県只見にて、18年前、突如、日本へと帰ってしまった彼女の知られざる本当の想いに触れることになる。映画を観て、ジミーとアミのせつない恋物語の余韻に浸りながら、ロケ地巡りがしたくなったという人もきっと多いはず。ジミーが訪れた場所を、早速紹介していこう。

■青春を共に過ごした旧友と思い出話に花を咲かせる「新宿ゴールデン街」

学生時代、仲間と立ち上げたゲーム会社を追われることなってしまった36歳のジミーが、「自身の最後の仕事」としてやってきた日本出張。日本の取引先との会食を終えたあと、共同創設者のアーロンと向かったのが、新宿・歌舞伎町の路地裏に位置する、「新宿ゴールデン街」の小さなバーだ。かつては、作家や映画・演劇人たちが夜な夜な集まっては議論を戦わせる、知る人ぞ知るディープスポットだったものの、近年ではジミーと同様、出張や旅で日本を訪れる外国人の間で、レトロな雰囲気が味わえる人気観光スポットとして大いに賑わいを見せている。暗い店内のカウンター席で旧友アーロンと思い出話に花を咲かせるジミーは、まさしく「止まり木」に止まり、束の間、羽を休める鳥のよう。

■青春の熱い記憶「SLUM DUNK」の聖地「鎌倉高校前」

翌朝、品川駅の構内を行き交う人の波に圧倒されながら、ジミーが最初に向かったのは、18歳のころ夢中になった漫画・アニメの舞台である湘南エリア。江ノ島電鉄「鎌倉高校前」駅のホームに降り立ったジミーは、ファンの間で「SLUM DUNK」の聖地として有名な、駅近くの踏切の写真を撮る。18年前、台南の「カラオケ神戸」でアミと初めて出会った日にジミーが発した片言の日本語は、「SLUM DUNK」に登場するセリフだった。

■台南でのアミとの思い出がよみがえる「由比ヶ浜」

鎌倉高校前駅から、江ノ電に揺られること17分。『シン・ゴジラ』(16)でゴジラが上陸した場所としても知られる鎌倉・由比ヶ浜の海岸には、水遊びをする多くの観光客やカップルの楽しげな姿が広がり、ジミーの脳裏には、18年前、アミや「カラオケ神戸」の仲間と一緒に行った、台南の海でのかけがえのないひと時がよみがえる。まさに、「自分の生きてきた道を確かめるような」ジミーの旅のはじまりにふさわしい、“記憶の呼び水”となる場所だった。

■同郷と遭遇する「信州・松本なわて通り商店街」と夜空に浮かぶ「松本城」

回り道をして長野県のJR松本駅に降り立ったジミーは、そこから徒歩10分ほどの、個性的な店が長屋風に軒を並べる「なわて通り商店街」に立ち寄り、「一休みはより長い旅のため」と看板に書かれた居酒屋に足を踏み入れる。そこは、偶然にもジミーと同郷の台湾人のリュウ(ジョセフ・チャン)が営む店だった。すっかり意気投合した2人は、閉店後、リュウの案内でライトアップされた松本城周辺を散策する。ちなみに、「なわて通り商店街」のシンボルは、街のいたるところに点在するカエルの石像。「藤井組」の常連俳優である横浜流星が出演する『流浪の月』(22)のロケ地にもほど近い。

■「JR飯山線」の車内で18歳のバックパッカーと出会い「上境駅〜上桑名川駅の大雪原」で青春の記憶を取り戻す

翌日、松本駅から長野駅に向かったジミーは、長野県と新潟県を結ぶローカル線で、信濃川と千曲川沿いの日本有数の豪雪地域を走る、JR飯山線に乗車。長いトンネルに差し掛かったころ、明るくフランクな18歳のバックパッカー、幸次(道枝駿佑)に話しかけられる。トンネルを抜けた途端、彼の目の前に広がったのは、かつてアミと一緒に観に行った映画『Love Letter』(95)の世界を彷彿させる一面の雪景色。「1回降りちゃいます?」という幸次の誘いに乗ったジミーは途中下車。大雪原へ駆け出す幸次の後を追い、無邪気に雪合戦に興じたあと、18年前のアミとの映画デートの結末を語る。

■再び願い事を書き込むランタンを飛ばす、新潟ランタンまつり「ニュー・グリーンピア津南」

隣の上桑名川駅から再びJR飯山線に乗り込み、そこから30分ほど電車に揺られ、森宮野原駅のホームで幸次と別れたジミーは、JR飯山線の終点、越後川口駅からJR上越線に乗り換え、新潟県長岡駅に到着する。幸次に教えてもらった「ネカフェ(ネットカフェ)」に立ち寄り、店内のポスターで日本にもランタン祭があることを知ったジミーは、かつて彼が作ったゲームをプレイしていたネカフェの店員、由紀子(黒木華)の案内で、ランタン祭りの開催地である「ニュー・グリーンピア津南」へと向かう。ちなみに長岡から津南までは、車でおよそ1時間半。台湾と同様、人々の願いを乗せて舞い上がるランタンを目にしたジミーは、かつてアミと交わした約束に思いを馳せる。なお、ネットカフェの店内は、東京世田谷区の「まんがの図書館ガリレオ三軒茶屋」で撮影されたという。

■アミの故郷にたどり着く「福島県只見町」

翌日、長岡駅から再びJR上越線に乗り、新潟県魚沼市の小出駅でJR只見線に乗り換えたジミーは、そこから1時間20分ほど東に移動し、アミの故郷、福島県の只見駅へと降り立つ。アミを幼少期から知る中里(松重豊)の案内でアミの実家へと向かったジミーは、アミの母親(黒木瞳)から18年前のアミの本心を告げられる。新潟と福島・会津若松とを結ぶ、秘境を走る“絶景路線”として鉄道カメラマンからも人気の只見線の車窓からは、澄み切った清流や深く美しい渓谷、どこまでも続く田園風景などのパノラマが楽しめる。

■ジミーの旅のフィナーレを飾る桜並木「隅田公園」

東京に戻ってきたジミーは、ちょうど「さくらまつり」が行われていた向島の「隅田公園」で、「青春にサヨナラを告げる旅」の終わりを迎える。下町のシンボルである「東京スカイツリー」の麓のエリアで、毎年春になると、吾妻橋から桜橋付近までおよそ1kmにわたりソメイヨシノなどの桜並木が広がり、屋形船や水上バスからも花見ができる。

ジミーや幸次が目にした風景を追体験するには来年の春まで待つ必要があるが、「それまで待ちきれない」という人は、Mr.Childrenの桜井和寿が本作のために書き下ろした主題歌「記憶の旅人」や、大間々昂が手掛けたサウンドドラックを聴きながら、四季折々の美しさに彩られたロケ地を巡る、「ひとり旅」を楽しんでみてはいかがだろうか。

文/渡邊玲子