「55年前に行方不明になった“イシナガキクエ”という女性を捜索する、特別公開捜索番組」という体裁をとり、4月29日深夜の初回放送から大きな反響を呼んできたテレビ東京の「TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています」。過去3回放送され、X(旧Twitter)では一時日本トレンド1位になるなどのムーブメントを巻き起こしてきた本作が、TVerにて配信中の(4)をもって完結した。

「TXQ FICTION」で制作の中心となったのが、テレビ東京の大森時生プロデューサー、寺内康太郎、皆口大地、近藤亮太という4名のクリエイターだ。インターネット上に真偽不明の考察が飛び交い、新たな都市伝説になってしまった感すらある“イシナガキクエ”。多くの視聴者が彼女を探し回った1か月間が終わったいま、PRESS HORRORでは4名のクリエイターを2名ずつでインタビューし、配信後だからこそ明かせる本作の結末についてや、制作までのプロセスを振り返ってもらった。

前編となる今回は「境界カメラ」や「フェイクドキュメンタリー『Q』」を手掛けた寺内康太郎監督と、「ゾゾゾ」で知られ、寺内監督と共に「フェイクドキュメンタリー『Q』」を立ち上げた皆口大地による対談をお届けする。

■「『イシナガキクエ』がいい作品に仕上がっているなら、それはチームの関係性がいいからだと思います」(寺内)

――寺内監督と皆口さんといえば、「フェイクドキュメンタリー『Q』」でコラボレーションされていることがホラーファンにはお馴染みですが、それぞれに活動されてきたお2人がコラボされたきっかけをお聞かせください。

寺内「2020年に深夜ドラマの『心霊マスターテープ』を監督した時、ゲストで『ゾゾゾ』メンバーの皆さんに出演していただきました。それがきっかけになって、(『ゾゾゾ』メンバーによるYouTubeチャンネルの)『家賃の安い部屋』に僕も出たんです」

皆口「連絡先を交換して、お食事に行かせてもらいました。その時に、寺内監督から『YouTubeを始めたいので、「ゾゾゾ」での経験を聞かせてほしい』という相談を受けまして。自分自身が監督のファンなので、寺内監督がYouTubeをやるなら絶対おもしろいものじゃないといけないと思って、『こういうのが観たいんです!』みたいな思いをぶつけていくうちに『一緒に番組を作りましょう』となって、『Q』が発足したという感じですね」

寺内「僕自身、これまで通りのやり方では企画が通らなかったり、出資者に企画を止められてしまったりすることがあってフラストレーションが溜まっていたんです。そんな時に皆口さんも『台本があって、役者がいるようなコンテンツもやってみたい』と言ってらして。お互いのやりたいことがしっかりと合致したというのが『Q』を始めた理由であり、結果が出た理由だと思います」

――それまでのお二人の作品にはエネルギッシュなものも多かったですが、「Q」がソリッドに恐怖を追求する方向性になったのはなぜでしょう。

皆口「寺内監督が撮られるホラーって恐さをロジカルに突いてくる、教科書といえるような作品なんです。悪質なことをしなくてもおもしろくなると確信していたので、日常の隙間を突っつくような作品になった、という感じでしょうか」

――皆口さんに質問です。皆口さんと大森さんは、同じようにプロデューサーの立ち位置で作品を作られてきたかと思いますが、どのような点から「TXQ FICTION」の取り組みにつながったのでしょうか。

皆口「大人同士の難しいビジネスの話とかじゃなくて、ただ純粋に『こういうものをやれたらいいよね』みたいな雑談を楽しくした時に、『ああ、大森さんとなら本当におもしろいものができるんじゃないかな』って思ったのが最初でした。その時話していたのが『イシナガキクエを探しています』の基になるアイディアだったんです。そのあと、寺内さんにすぐお声がけして3人でワチャワチャお話をして、『Q』のスタッフである福井鶴さんにもっとおもしろくなるようにストーリーを書いていただいたりして…と、あっという間に進んでいきましたね」

寺内「作っていく過程で最終的にどんなものにするかを変えていくことができたというのは、このチームのスピード感と関係性ゆえだなと僕は思いました。『イシナガキクエ』がいい作品に仕上がっているとすれば、それは僕らの関係性がいいからだと思いますね」

■「“人が死んだこと”を扱うコンテンツだからこそ、『ボーダーラインはどこか』と考えます」(皆口)

――2人のプロデューサーとお仕事をされてきて、寺内監督は2人の共通点をどうお考えでしょうか。

寺内「ブリコラージュというすでにあるものを組み合わせる作り方と、エンジニアリングと言う目的を持って作るという作り方があります。料理で例えるなら、ブリコラージュは冷蔵庫にあるもので料理を作る。エンジニアリングは決めた料理を作るために必要なものを用意するというような感じです。僕はエンジニアリングのタイプなのですが、『Q』でいうと皆口さんが、『TXQ FICTION』では大森さんがブリコラージュの人でしたね。皆口さんと大森さんは視聴者がどう観るか、作品を観てどのような変化が起きるかまで考えるんです。二人とも最後まで責任を持って、結果が出るところまでを考えるという意識がすばらしいと感じました」

――「ゾゾゾ」はロケ地への許可取りが徹底されていたり、関わっている方にちゃんと理解を得られている点が珍しく、ホラーなのにハートフルな雰囲気が魅力だと感じています。また、大森さんも“常識の範囲”を出ないことを重んじてらっしゃるようにお見受けします。

皆口「ホラーってただでさえ怒られがちなジャンルだと思うんですよ。心霊系コンテンツって、言い方を変えれば人が死んだことをネタにしていることにもなってしまうので。だからこそ『ボーダーラインはどこなのか』ということはすごく考えますし、大森さんもホラーの不謹慎性については非常に考えられていると思います。『イシナガキクエ』を進めていくなかでも、大森さんは『これは大丈夫だと思います。でも、こういうことはやったらダメだと思います』という基準をはっきりと示していました。価値観をしっかりお持ちなので、刺激を受けますね。寺内監督はいかがですか?」

寺内「時代の流れというのは、やはり大きいなと感じます。映画業界にも、一昔前までは“おもしろければなんでもいい”という風潮がありましたが、いまとなっては、やってはいけないことをやってきた人たちがちゃんと怒られていますよね。ですがホラーっていうジャンルは、やっているだけで怒られてたわけで(笑)。だからこそ、ルールを守ったなかで表現しようとしてきたという歴史はあるかもしれません」

■「“イシナガキクエ”という都市伝説ができていく過程を見られたのは、すごく感動的でした」(皆口)

――寺内監督は「TXQ FICTION」以前にも、大森さんと共に「祓除」で三部作にわたる壮大な映像作品を作り上げられましたよね。

寺内「『祓除』はテレビ東京60周年のイベントをやるというのが大前提で、事前事後番組を含めて映像作品にすることはあくまでおまけだったんですね。背筋さん、梨さんという圧倒的個性のあるホラー作家の世界観を、なんとかしがみついて映像に落とし込みました。あの時は自律神経がおかしくなったぐらい、とにかく一生懸命でしたね」

――「祓除」に続いて、「TXQ FICTION」の制作へと移っていくと思うのですが、皆口さんにとっては、これまでと違う“テレビ”というフィールドでの番組作り。どのような違いがありましたか?

皆口「普段自分は、『ゾゾゾ』でも『フェイクドキュメンタリー「Q」』でも、視聴者の声に対して、ある種耳を貸さないようにしているんですよ。ただ、そんな自分でも今回はテレビの影響の大きさを思い知りました。それこそ“イシナガキクエ”という都市伝説ができていくような過程を見られたのは、すごく感動的でしたね。珍しく、『自分はいま、おもしろいものを作っているんだ』という自信が生まれました。(1)が放送された時点では、まだ(2)以降を作っている途中だったので、1回目の反響を2回目に取り入れたり、視聴者の方からいただいた情報提供のお電話も作品に取り入れたりしました。“声”に影響を受けて反映したというよりは、取り入れるという手法ではあるんですけど。でも、終わり方はたくさん議論しましたよね」

寺内「そうですね。終わり方は当然議論になりました。でも結局元々の台本に戻ったんです。僕は制作期間中にも議論が続いたことこそが、結末を簡単に変えられない映画と違う、テレビコンテンツならではのおもしろさだと思っています。途中で視聴者の反応を見ながら展開を変えていくというのは、それこそブリコラージュ的要素だと思っていて。やってみて楽しかったです」

■「本作は『絶対に共感はできないけれど、一生懸命に生きた男の物語』だと思います」(寺内)

――寺内監督は、演出家として「イシナガキクエを探しています」でたどり着いた結末を、どのような物語だと表現されますか。

寺内「元々の構想は、イシナガキクエと米原実次という2人の関係性がなんだったのか、というテーマにあたたかな要素を入れようというものでした。『祓除』のラストもですけど、ホラーってどうしても嫌な終わり方が多くて…もうああいうのに疲れたっていうか(笑)。僕なりに『イシナガキクエ』の結末を簡単に表現すると、『変な男のとんでもない衝動の物語。絶対に共感はできないけれど、一生懸命に生きた証』という感じでしょうか。僕は米原という男の物語だと思っています」

――ありがとうございます。最後にお2人が今後、映像で挑戦してみたい“恐怖”の伝え方を教えてください。

皆口「例えば大森さんとでしたら、彼の作品は変化球が多いので(笑)、ものすごいド真ん中の心霊物を一緒にやれたらおもしろそうですね。いまの時代新しいものを作っても、単品で置いておくと埋もれちゃうし見つけてもらえないと思うので、その際は『Q』や『TXQ FICTION』のように“場所”を作って、そこに作品を置いていきたいですね」

寺内「いま僕ら2人が作っている『Q』などの作品は“超リアリズム”と呼ばれているようなんですけど、『イシナガキクエ』は”超フィクション”のつもりで、フィクションであることのすばらしさを信じて作っています。現実的な痛みという表現もたまにはやりたくなるんですけど、やっぱり作っていても痛いし、観ている人はもっと痛かったりして辛い。ですから最近は、自分が子どものころに影響を受けた大好きなフィクションの世界に帰ってきています。今後も、“恐怖”を感じさせるフィクションを作っていきたいなと思いますね」

取材・文/小泉雄也