能登半島地震で被害を受けた石川県・奥能登の酒蔵では、別の蔵を借りての酒造りが始まっています。小松市の酒蔵では輪島市の造り酒屋がそれぞれの杜氏同士が手を取り合って新たな取り組みをスタートさせました。

小松市の東酒造で酒づくりに励む輪島市・中島酒造店の中島遼太郎さん。22日に発売された新酒の出荷に向けた準備が進められていました。一枚ずつ手作業でラベルを貼る遼太郎さん。

一枚ずつ貼られるラベル

能登半島地震で蔵が被災し、小松市の酒蔵で設備を借りながら再起を目指してきました。

東酒造・東祐輔 社長「かっこいいな、形」
中島遼太郎さん「この瓶の形に惚れました」

完成した中島酒造店の酒

瓶もラベルも自ら選んで作った中島ブランドの酒。きっかけは、震災から半月ほど経った時の出来事でした。

「これをお酒にしてあげたい」がれきの中から見つかった酒米

輪島市鳳至町の中島酒造店。年間の生産量が1万本ほどの小さな酒蔵ですが、地元の住民に長年、愛されてきました。しかし、元日の地震で、木造の酒蔵と母屋は倒壊しました。

中島遼太郎さん「ちょうどこの下くらいから、今年酒造りに使うはずだったお米4トン以上あるお米が、ほとんど無事な状態で出てきた」

がれきの中から見つかった酒米

目の前のことで精一杯という状況のなか、ボランティアの人たちが無傷の酒米を見つけ出したことで、先への目標が持てたと振り返ります。

中島遼太郎さん「嬉しかったです「あぁ!ここにあった!」という状態ですよ。目標ができた。それまで目標を持つことができなかった。やっとちょっと前を向いて歩く方法の選択肢がちょっと出てきて」

発見された場所を説明する中島遼太郎さん

中島酒造店を支援しようという県酒造組合連合会の呼びかけに、東酒造が手をあげたのには、ある理由がありました。

杜氏も同じ被災者…「どうしてもやってあげたかった」

東酒造・東祐輔 社長「杜氏の二見がどうしても遼太郎の酒を造るのを手伝いたいと相談を受けた」
東酒造・二見秀正 杜氏「やっぱり、どうしてもやってあげたいから引き込んだ形ですね。また、将来的に一緒にやっていければいいかなと思うし」

中島酒造店を受け入れた東祐輔社長(左)

二見さんは、自らも珠洲市の自宅が被災するなか、「造りたい酒を造ればいい」と中島さんの背中を押します。中島さんとの打ち合わせでも「資料はいつでも見れるので。ウチは全然隠すものはないので」と声を掛けます。

中島さん(左)と打合せする二見さん(右)

こうして多くの人に支えられながら、輪島に古くから伝わる中島酒造店ブランド「能登末廣」が完成。能登の杜氏が、加賀の水で手掛けた新酒は、ラベルのデザインも一新しました。

地震から3か月が経った今月。完成した「能登末廣」とは違った別の酒造りに向けて、2つの酒蔵は新たな仕掛けを打ち合わせていました。

東 社長「うちら二人でしかできない商品やね。コラボして…商品開発して一緒に作り上げたというお酒だから」
中島さん「すごい楽しみ…」

2人の杜氏が培った技を惜しみなくつぎ込んだ、新たなブランドの地酒です。東酒造でもない、中島酒造店でもない新たな試み。空白のラベルが貼られたその名も「名前のない日本酒」でした。

「名前のない日本酒」のラベルは真っ白

中島遼太郎さん「シリアルナンバーがラベルに1、2、3って入る。全部ラベルのちぎられ方というのが全部違う、手でちぎって貼る、みたいな。一個一個同じものがない形で出てきます」
東祐輔 社長「中島酒造店さんを全国に知ってもらう機会にしたいというのがホントの目的のクラウドファンディング」

中島さん(左)と打合せする東社長(右)

2人の杜氏にとっても初の試みとなる新酒は、インターネットで広く支援金を募るクラウドファンディング限定で販売することで、中島酒造店の再建にもつなげます。タンクで発酵が進む酒を見せてもらいました。

「しゅわしゅわしゅわ…」タンクから聞こえる醸しの音

しゅわしゅわと小さく聞こえる音は菌による発酵が順調に進んでいる証です。

二見秀正 杜氏「香り嗅いで見る?……OK?」
中島遼太郎 さん「OK!」

タンク内では発酵が進む

搾り前ですが、辺りにはすでに華やかな香りが漂っていました。お互いの技術が融合した新たな酒は完成まであと1か月余りです。

二見秀正 杜氏「一番違うのは、ウチは香りの強い酵母を使っていなくて、遼太郎のは香りが華やかなやつ、香りのよい、甘めのお酒になると思いますね」
中島遼太郎さん「スタートは今回の能登の震災かもしれないですけど、それによって逆に…出会ったことで別の方向で前を向くというか。だから、今までやってきたこと以外の方向からも色々見れるようになりました。」

ふたりの杜氏が一つの酒を仕上げる

被災してなお、受け継いだ酒蔵を守り続けようとする中島さん。すべてが新たな挑戦ですが、希望を持ち続けます。