石川県珠洲市に本社を置く企業が、能登の自然素材を使ったスキンケア商品を開発し、22日に発売しました。地震で甚大な被害を受けた1次産業を支援し、生産者や職人たちのなりわい再建を後押しします。

アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長「壁と天井の一部が全部落ちてしまって…梁はしっかりしているので建物自体は壊れていないけど中は全部崩れてしまっている」

珠洲市蛸島町の古民家・文藝館。地域創生に取り組む企業、アステナミネルヴァの本社があった場所です。

アステナミネルヴァの本社があった古民家「文藝館」(珠洲市蛸島町)

アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長「すごくショックだった。やっぱりみなさんと一緒に前に進むしかないし、前以上に頑張らなきゃなという思いを新たにしている」

アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長

2021年、珠洲市に本社機能の一部を移した東京の上場企業アステナホールディングスは、地域の課題解決に取り組むため子会社のアステナミネルヴァを立ち上げ、社員が移住してコメや日本酒などの開発に取り組んできました。

アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長「一次産業や伝統職人の技の継承というのは本当に一部の頑張っている人たちの努力によってのみ踏ん張っているということがよくわかった。私たちは一次産業、伝統職人の技の底上げといったところをやりたいと思ったのが始めのきっかけ。」

1月の発売を予定し開発を進めていたのが、ヘルスケアブランド「NAIA(ナイア)」です。珠洲の酒蔵の酒粕を使ったフェイスマスクや、炭の成分が入った洗顔フォーム、能登ヒバのミストなど、能登の自然素材がふんだんに使われています。

アステナミネルヴァのヘルスケアブランド「NAIA」

アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長「(洗顔フォームを手に出して)かなり黒いですね。色はこの菊炭です。これを細かくパウダー化してこのパウダーが汚れを落としてくれる」

菊炭のパウダー

炭を手がけるのも同じ珠洲市内の会社です。珠洲市東山中町にある「ノトハハソ」代表の大野長一郎さんは県内で唯一、専業で炭焼きを営む職人です。

ノトハハソ代表・大野長一郎さん「土で作られたドームの天井があった。それが崩落して焼きあがった炭の上にどさっと。こっちは天井の形は残ったけど部分崩落した」

ノトハソソ・大野長一郎さん

2022年、2023年と相次いだ地震で立て続けに崩れた炭焼きの窯ですが、修理をして火入れを再開した矢先に元日の地震が襲いました。

ノトハハソ代表・大野長一郎さん「火を止めたばかりだったので冷却も消火も完全ではない状況の中酸素が流入したので800キロの炭が一気に再燃焼し始めて。隙間から炎がバーナーのように上がっていたり。とにかくここが火事になって燃えてしまうのを防ぐのに必死で」

地震で壊れた炭焼き窯(ノトハハソ・珠洲市東山中町)

洗顔フォームに使われたのは、昔ながらの手仕事で丁寧に焼き上げ、茶道でも使われる「菊炭(きくすみ)」です。大野さんは2004年から、原料となるクヌギの苗木を周辺の耕作放棄地に植え、森を循環させながら炭を作ってきました。

洗顔フォームに使われる「菊炭」

ノトハハソ代表・大野長一郎さん「炭焼きを残そうというよりは、むしろ自分が生まれ育った地域を未来に残したいというのが僕の一番の目的で。価値をあげるためにも公益性を探し求めた部分もあって。これからも何とか粘って、今誰も社員もいなくなってしまったけど担い手が生れるように、この仕事をしたいという人が外から集まるような仕事にしたいとは思っている」

アステナミネルヴァでは大野さんの理念や炭づくりのこだわりを、商品を通して発信したいと考えています。

AMトレーディング・奥山智司さん「里山里海が世界遺産に指定されて。でもその景色を守っているのは田んぼにしても森にしても一人ひとり顔と名前が出てくるような、この一帯であれば大野さんの製炭と植林のサイクルで生態系が守られている。我々の製品でまた新しいお客様に届けることでお伝えできないかと思っている」
ノトハハソ代表・大野長一郎さん「(復興に向けて)一次産業を中心に組み立て直していく必要があるのかなと。ここに元々あったものを再評価してもらって価値をあげるとか、新しい価値をいかに創造していけるかというベースとして里山里海がある中で、どうやって地域を持続可能にしていくかというのは社会全体の課題なので」

地震で非常に大きな被害を受けたコメ農家も、新ブランドに期待を寄せます。

アステナミネルヴァが開発したヘルスケアブランド・NAIAのフェイスマスクに使われているのは地震で被害を受けた珠洲市の酒蔵の酒粕です。

酒粕が使われているフェイスマスク

アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長「能登の酒粕をよく分析してみると非常に糖度が高くて、糖は水分を吸うので肌に染み込むと肌がもっと水分を吸ってくれる。非常に保湿効果が高いということが分かった」

清水社長が訪ねたのは、珠洲市のコメ農家・瀬法司公和さん。

商品に使う酒粕は瀬法司さんのコメから作られています。

能登のコメ農家は地震で苦境に立たされています。輪島市・珠洲市・能登町・穴水町の奥能登2市2町の2024年の作付面積は、2023年の6割程度に留まると見込まれています。

瀬法司さんの田んぼも水路が損傷したほか近くの斜面が崩れ、土砂がなだれ込む被害がありました。

瀬法司公和さん「地震だけでなく、毎年大雪であったり大雨であったり、どうしようもないものはどうしようもないと捉えるようにはしていたけど、今回の場合は被害がものすごく大きかったので、モチベーションも含めてすごく大変だった」

珠洲市のコメ農家・瀬法司公和さん

水路の修理と並行して、なんとか今シーズンの田植えを始めた瀬法司さんは、能登発のスキンケアブランドに大きな期待を寄せます。商品を前に瀬法司さんも感慨ひとしおの様子です。

瀬法司公和さん「なんか不思議ですね。自分の作ったコメから自分がキレイになれるものが作れるって…」

地元の産業を守ることにつながる企業との連携に、瀬法司さんは光を見出しています。

瀬法司公和さん「食べたいという人や使いたいという人がいてくれて初めて作れるのが僕たち。色々な形で活用されて喜ばれる商品になっていくというのはやりがいにつながるし、気にかけてもらう機会が増えるのはめちゃくちゃありがたい」
アステナミネルヴァ・清水雅楽乃社長「一次産業の底上げをして、それを別の形に変えていく。生産者の皆様と一緒にできることはやっていき、当社が今作っている商品がもちろん土地に還元できたり、みなさまが作っているもののすばらしさをもっともっといろいろな方に知っていただきたいと考えている」

当初、1月中旬の発売を予定していた「NAIA」は、地震で物流がストップするなどして発売を延期していましたが、4月にクラウドファンディングを行い、ECサイトなどでの一般販売にこぎつけました。県内では能登空港の売店でも販売するなど、地元で使ってもらう展開もしています。

原料となった炭を作る職人や酒粕を手がける酒蔵は、地震の影響ですぐに事業を始めることが難しい状態ですが、アステナミネルヴァではすでに製造していた分をまず販売した上で、生産者や職人と復興に向かって並走しながら商品展開を模索する予定です。