「偉大な存在だったからこそ、いなくなった現実を直視することができなかった」
 時折、目頭を押さえながら、胸の奥にしまっていた思いを少しずつ言葉にしていった。ずっと心の支えとなってくれていた父を、3月下旬に亡くしたV・ファーレン長崎のマルコス・ギリェルメ。「でも、いつまでも悲しんでいられない。家族のため、チームのため、そして父のために今まで以上にやらないといけない」。28歳のブラジル人MFは今、これまで以上に真摯(しんし)にサッカーと向き合っている。
 母国をはじめ、クロアチア、サウジアラビア、ロシアのチームを渡り歩き、昨年7月、V長崎に加入した。移籍を伝えると、日本の文化や環境に好意を抱いていた父はとても喜んだ。「日本でプレーする息子を誇りに思う」。そう言って背中を押してくれた。
 警察官だった父は、厳格で、優しかった。家族思いで、3人きょうだいの中で唯一、プロになったときもうれしそうだった。「ブラジルでプロになるのは誰もが憧れること。だから、父を中心に家族で喜んでくれた」
 3月中旬、父の容体が悪くなり、ブラジルに一時帰国した。このため、第6、7節はメンバー外。以降も途中出場が続いた。第10節の徳島戦でアシストを記録したが、状態は上がってこない。今季2度目の先発となった4月17日のJ1磐田とのルヴァン杯2回戦は「キャリアの中で最も自分のサッカーができなかった」。前半だけでピッチを去った。21日の第11節横浜FC戦はベンチ外だった。
 「このままではいけない」。24日のチーム練習後も、居残って黙々とダッシュを繰り返した。迎えた27日の第12節群馬戦。ベンチ入りすると、後半18分からピッチに立ち、持ち前の走力を生かして勝利に貢献した。
 「V長崎のJ1昇格のために力になりたい。そして、元気にサッカーをしている姿を天国に届けたい」。父への思いを胸に、もっともっと走り続ける。